お前ら人間じゃあないからなぁ⁉
大学生のころ、心理学の授業で迷信が生まれる構図を証明した心理実験の動画を見せられたことがある。複数人の男女が同じ部屋に閉じ込められ、壁につけられた電光掲示板の数字が100になれば賞金を貰える。だがそのポイントがどうやって上がるかは教えられておらず、それは自分たちで探さなくてはならない。部屋には多くの玩具が存在しており、被験者たちはそれを使ってどうやったらポイントが上がるかを確かめていく。だが実際は隣の部屋で水槽の中を泳ぐ金魚があるポイントを通過すると点が入るようになっている。だが被験者たちはその点数が上がった前後でしていた、全く関係のない自他の言動を勝手に結び付け、縄跳びをすれば点数が入る、バランスボールで飛び跳ねていると点数が入るなどの迷信を造り上げてしまった。これが雨乞いの儀式に生贄を使ったり、流行り病がおこるとユダヤ人などの少数民族を虐殺してきた人々の真理である。雨が降るのは海や土壌の水分が蒸発して、冷たい上空で水蒸気が冷やされて蒸気の粒がまとまり、重力によって落ちてくるからである。ユダヤ人が流行り病の中でも元気だったのは、キリスト教徒が嫌った屠畜業をになっていたおかげで、一般人よりお肉を多く食べて体力があった事と、屠殺の悪臭を嫌ったキリスト教徒がユダヤ人を村や町の外に隔離していたからである。
でも人は雨が降る数日前に人が死んだりすると、雨が降ったことと人が死んだことを結び付けたりするのだ。ユダヤ人が無事なこととそれ以外の人が多く死んでしまったことは関係ないし、例えば井戸の水を飲んでたまに人が死ぬのはその水が不衛生だからであって関係ない。だがそれを結び付けてユダヤ人が井戸に毒を巻いたから人がたくさん死んだという迷信が生まれるのだ。
いま、それと同じことが俺の身にも起きていた。
「そういえば前からおかしな奴だと思ってたんだ。子供らしくないし、気味の悪い目で周りの大人たちを監視してたりもした」
「たまに一人で、意味の分からない言葉を言ってるのを聞いたことがある。あれは悪魔の言葉だったんだ」
「そういえばずっと地面に寝っ転がりながら体を起こしたり下げたりしてるのを見たことがあったわ」
「俺は家の屋根に上って、腕を上げたり下げたりしてるのをみたことがる。話に聞く猿みたいでおかしな奴だと思っていたが…」
「きっと悪魔の儀式なんじゃないか…」
「もしかして去年と比べて雨が多かったり、冬が速いのもその儀式のせいじゃ…」
周りの人間たちが言いたい放題、俺の悪口を吹き出していく。
死にたくない、俺の中にあるのはその一心だけだ。
でも最後の頼みの綱である両親たちは俺の期待を見事に打ち砕いた。
「ベルとシュプラードはどうだ。この者を一番近くで見て来た者としてなにか不自然な言動はあったか」
「……っ……………赤ん坊のころから不思議な子でした…これまで泣いた姿なんて一度も見たことがなかったです。生まれた時に産声を出すこともありませんでした。いつも物静かで、こちらをじっと見つめて周囲を観察している様子でした。言葉を覚えるのも、歩くのも周りの子供より一年以上早かったですし、時々意味の分からない言葉を口にすることもありました。そしてその時は決まって慌て顔をして、すぐに誤魔化すような態度を取っていました……この子が悪魔付きなのか魔女なのかは……分からないです……司祭様と代官様の判断に委ねます……」
父は正直にこれまで見てきたことを話した。
もし俺をかばえば両親ともども魔女だと火炙りにあうか、俺が両親を洗脳しているのだと思わる可能性がある。だから八方ふさがりであった。
裁判官を務めている代官と司祭、この村の農奴の中で一番の有力者であるエドムントたちが目伏せをした後、真ん中に座っていた代官がついに判決を出した。
「判決を言い渡す。この者、闇の魔法にてエミーとその両親の名誉を侵害し、悪魔の言葉と儀式によって多くの人民の心を惑わせ、また村の穀物庫に火を放った可能性大いにありと判断した。よってこの者を魔女と認定し火刑を言い渡す。刑の執行は明日の夕刻にこの広場にて執行することとする。兵士たちをこの魔女を拘束し、屋敷の牢屋に収監せよ。以上を持って裁判を閉廷する!」
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