③教会のお手伝い――⑱
外の景色に見とれつつシスターと学園生活のことを話し込んでいる間に、ほのかに甘い匂いが漂ってきました。ティーセットを乗せたトレイを持つコハクと、アップルパイの乗ったお皿を抱えたアカネが部屋に戻ってきました。
「おつかいの最中に林檎が沢山手に入ったんです。苦手じゃなければぜひお召し上がりください」
「コハクのアップルパイ、とっても美味しいのっ」
何故かアカネが得意げに胸を張ります。
ちょうどお腹が空いていたアサギは、取り皿に一切れ分だけ取ってもらいました。林檎の果肉とカスタード、温かくしっとり焼き上がっているパイ生地が絶妙にマッチして、口の中を喜ばせてくれます。その美味しさは、アカネだけでなくアサギもシスターもおかわりをしてしまうほどでした。
あっという間に空になったカップとお皿、フォークを片付けて、コハクは三人に向けて深々と頭を下げました。
「本当に今日はありがとうございました。とても助かりました」
「私たちも、少しでも神父様のお役に立てて何よりです。ねぇ?」
シスターに問いかけられて、アサギもアカネも首を縦に動かします。街へ来た瞬間は不安でしたが、人の役に立てただけでなく、綺麗な庭が見られて、美味しいおやつも食べられて、とても楽しい一日でした。
「あんまり遅くなるといけないから、そろそろ失礼しましょうか」
「アカネは……コハクにまだ、用事があるから……」
もじもじと手遊びをするアカネの様子に、アサギは察しました。シスターと顔を合わせると、どうやらシスターも同じことを考えていたようで、二人揃って頷き合います。
「それじゃあ、私とアサギ君は先に失礼するわ。神父様、アカネちゃん、ご機嫌よう」
「神父様。また、機会があったらお手伝いさせてください」
「ありがとうございます。まだそう暗くはないけれど、帰り道はくれぐれもお気を付けて」
最後まで穏やかな笑顔を崩さないコハクといつの間にか手を繋いでいるアカネに見送られながら、アサギはシスターに手を引かれて教会の外へ出ます。その際にふと目に付いたのは、教会の扉の横に置かれている丸太の山。さっき中に入った時はこんなのなかったような、とアサギは首を傾げながらも教会に背中を向けました。
神聖な庭をも離れ、街の大通りに入ると、すぐに都会の喧騒が二人を包みました。
怯える
「アサギ君。あんまり周りを見ちゃだめよ?」
「わかってます。ここにいる大人はみんな……怖いから」
「そうね。それじゃあ……街を出るまでの間、私のことだけ見てるといいわ」
傾きかけた太陽を背に浴びるシスターは、聖母よりも美しく微笑みます。
ふわり。絹のような柔らかい風が、シスターのキャラメルブラウンの長い髪を揺らします。
「綺麗……」
「え?」
「あっ、な、何でもありませんっ」
急に見つめられるのが恥ずかしくなったアサギは、咄嗟に顔を下げました。その代わりに、繋いだ手に力を込めました。シスターに気づかれないくらいに、そっと。
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