③教会のお手伝い――⑫


 アイとハクアが音のした方に顔を向けると、すぐ傍で老人がへたりこんでいました。その横に杖が転がっています。どうやら先ほどの物音は杖を落とした時のもののようです。

 

 「大丈夫ですか?」とアイは老人に手を貸し、ハクアが老人に杖を渡します。


 立ち上がってからも、老人の顔は真っ青でした。しわがれた口は、トランプを交える林檎売りと男の子に向けて、「あの時と同じじゃっ……」と呟きます。


「あああ……もうどうしようもない……あの男は終わりじゃ……」


「それ、どーゆーことですか?」


「し、知らないのか? まあ子どもなら知らなくても無理はないか……この街にはな、賭場殺しがおるんじゃっ……!」


「賭場殺し?」


「そう……賭場に出向いては法外な額の金を賭け、信じられないほどの勝負強さで連勝を繰り返しては賭場を潰していく……“トパーズの瞳の悪魔”がっ……!」


 ガタン、と大きな物音が響きました。


 自分の手札を開示した男の子が「俺の勝ちだ」と宣言しました。その正面では、顔を歪めた林檎売りが、信じられないといった様子で何度もテーブルを叩いています。


「待ってっ! い、今のは、何かの間違いだ! そ、そうだ、イカサマだな!? イカサマしやがったな!?」


「してないよ。たった一回のゲームでイカサマだなんて疑うのは、そっちに何か疚しいことがあるからかな?」


「……っも、もう一回だ! もう一回、俺と勝負しろ!」


「いいよ。じゃあ次は、さっきの更に十倍の賭け金で遊ぼうか。でもその前に……」


 鋭い光を瞳に宿し、男の子は林檎売りに向かって手を差し出しました。


「さっきのゲームの分の報酬を貰えるか? 次のゲームに移るのはそれからだ」


「っわ、わかったよっ! ほら、持っていけっ!」


 黄金の林檎が、男の子の手に渡りました。

 その後、何回かゲームを繰り返した結果、双方が賭けたお金の全てと大量の林檎が男の子の手に渡りました。

 男の子に一度も勝てなかった林檎売りは、魂の抜けた表情かおで、手ぶらでどこかへ消えていってしまいました。

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