②白うさぎと黒猫――⑤

「ああ、これな。暖かくて丈夫だし、仕事に行く時は着るようにしてるんだ。礼にしては上等すぎるけど……ありがとうな」


「……どういたしましてー」


 すぐに手を離したヒスイは、不自然にアイから目を逸らし、ノアの額を優しく撫でます。


「この子、僕が面倒見てあげてる子でね、ノアって言うんだけど……林檎が食べたいんだって。でも、僕達が住んでる島には果物なんてらないから、こーやって下りてくるしかなくて……」


「ふーん。じゃあオレが代わりに林檎買ってきてやろうか?」


「それが……この子、前はモノクロ山に住んでて……山ではよく歌が聞こえてたんだって。何かの動物の声だと思うんだけど、その歌を聞かなきゃ安心して眠れないみたいなんだー……だからモノクロ山に連れてってあげなきゃいけなくて……」


「なるほどな……モノクロ山なら林檎の木も生えてるもんな」


 頷きながら、アイは時計に目を向けました。まだ朝の早い時間。いつもなら仕事に精を出している時間です。


 ベッドの上では、不安そうに伸ばされたノアの手を、ヒスイが優しく握ってあげています。グレーのタレ目が憂うように翳って見えました。


「……この森から、モノクロ山まで行ける近道があるんだけど。道案内してやろうか?」


「ほんと?」


 アイが声をかけると、グレーの瞳にきらきらと光がしました。

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