②白うさぎと黒猫――①


 ここは、天空に浮かぶたった一つの島――グリーンアイランド。

 たった一つだけそびえ立つ、大きなお城。そのお城の中の、最も日当たりの良い小さなお部屋で、魔王・ヒスイは困っていました。


「まおーさまっ……ごほっ、ごほっ!」


「ほら、お喋りしてると治らないよ……おとなしく眠ろうねー」


 特注の林檎型のベッドにうずもれて、黒猫のノアは真っ赤な顔で咳を繰り返しています。今はぽかぽかとお日様を感じる季節で特に風が冷たいわけでもないのですが、どうやら季節外れの風邪を引いてしまったみたいです。


 冷たいタオルを額や頬にあててあげたり、とっておきの蜂蜜を温めて飲ませてあげたりと、ヒスイはできる限り面倒を見てあげています。ですが、自分自身が一度も風邪を引いたことがないため、正しい看病の仕方がわからずに困っていました。


「まおーさまっ……そばにいてっ……どこにもいっちゃやだっ……!」


「行くわけないでしょー……風邪が治るまで、ちゃーんとノアの傍にいるから……」


 泣きじゃくるノアは、ヒスイが手を握ってあげても頭を撫でてあげても、ぐずぐずと鼻を鳴らします。苦しくて、なかなか眠りにつけないみたいです。


「他には? 何かしてほしいこととかあるー?」


「……りんご……りんご、たべたい……」


「林檎かぁ……」


 ノアの幼気いたいけなリクエスト。

 思わずヒスイは窓の外に目を向けていました。

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