①魔王と出逢ってしまった木こり――⑩
あまり仰々しく見送られるのも嫌だからと、アサギが洗い物をしている間に魔王君はログハウスを出ました。
せめて見えなくなるまではと、アイも一緒に外へ出ます。
澄み渡った幾つもの星空。そこに浮かぶ唯一の島は、暗くとも不思議と形を捉えられるほどハッキリと存在を主張しています。きっと、やけに大きな月明りのせいでしょう。
「なぁ。本当に大丈夫か? あんなところまでどうやって帰るつもりか知らねぇけど、やっぱこんな暗い時間に出歩くのは危ねぇぞ? 泊まってけばいいのに」
「……変なの。人間が魔王の心配するなんて……」
「別に人間も魔王も関係なくね? 魔王だろーが、夜行性の猛獣とかに襲われる可能性は一緒だろ。それに街では異常気象だって起きてるっつーし、雷に撃たれりゃオマエだって流石にヤベーんじゃねーの?」
「……どうだろうねー……とりあえず、君がとっても純粋……あ」
空から地上に視線を戻した魔王君は、アイのフォレストグリーンの瞳をじっと見つめました。
「訊くの忘れてた……名前、なんて言うの?」
「え? 言ってなかったか? アイだよ。オマエは?」
「……ヒスイ……」
「ふーん。ヒスイ、気を付けて帰れよ。危ないと思ったらすぐ引き返して戻ってきていいからな」
「大丈夫だってば……でも、ありがと。またね……アイ」
「ああ。またなっ」
アイがにこやかに手を振ると、魔王君ことヒスイも同じように振り返しました。
やがて手を下げたヒスイは、目を閉じて何かを唱えます。嵐のような突風が森へとなだれ込み、ヒスイの体だけを空高く押し上げていきました。島まで送り届けるかのように。
「……やっぱすげーな……アイツ」
風を乗り物のように扱うその様子に、アイは感心してしまいました。
翌朝、頑丈かつ光沢のあるケープと安眠用のパジャマが“お礼”と書かれた手紙と共にアイの元へ届くことは、この時はまだヒスイしか知らないのでした。
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