①魔王と出逢ってしまった木こり――⑥


「ほらー……これ売ってきなよー。そしたらしばらく働かなくていいんでしょー?」


 再び急かされたアイは、改めて視線を空から地上へ戻しました。

 たった数秒間の風になぎ倒された大木。その数は、アイが汗を垂れ流しながら一日で切り倒す数を遥かに超えていました。


 ふぅ。小さく一息吐いたアイは、さっき自分が街で売ってきた分と同じくらいの量の木を、ロープで括って一つにまとめました。そのままブーツの先を街の方へと向けます。


「さっき立て替えた蜂蜜代の分は貰っていくからな。残りの木は全部、オマエが持って帰って使うなり売りに行くなり好きにしろ」


「え……? ちょ、ちょっと待ってっ……!」


 ロープで縛った分だけを引きずって街の方へ戻ろうとするアイの服を、魔王君は強く引っ張りました。


「何で……これ全部売っちゃえば、君はしばらく遊んで暮らせるんじゃないの……?」


「オレは何も手伝ってねーし、人の稼ぎでなんか遊んで暮らせるかっつの。そもそも生活費なんざ自分の手で稼がねぇと意味ねーだろーが」


 アイは当たり前のことを言っただけですが、魔王君は何度も何度も瞬きを繰り返しました。やがて瞬きの動きが鈍くなった頃、フラフラとアイに寄りかかりました。


「おい? だいじょ……」


「ねむい……」


「え? あ、おい!!」


 眠たい瞳を休ませて、魔王君は再びその場に倒れてしまったのでした。

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