①魔王と出逢ってしまった木こり――⑦

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「……いい匂い……」


「あ! 起きたか!」


 アイがテーブルにバゲットを並べている時です。ベッドにいた魔王君が目を覚ましました。


「ここ……どこ……?」


「俺んだよ。オマエがまた外で倒れたから、ひとまず背負って連れてきたんだ」


 アイが説明をしている間もキョロキョロと辺りを見回す魔王君。瞳をこすってベッドから降り、窓から外を一望します。でも、森の奥地のログハウスからは、星空と緑と動物の姿しか見えません。


「君のおうち、とっても静かだね……お腹空かせたヒトクイバナも、野原丸焼きにするドラゴンも、ゾンビが出てくるお墓も……なーんもない……」


「んなモン、普通の家の近くにはねぇよ」


「……そーなの? そうなんだ……いいなー……」


 窓枠に肘をつく魔王君は、キッチンを振り返って首を傾けました。


「あそこにいるの……コックさん?」


「んなワケあるか。アイツはオレの弟だよ」


「おとーと……」


「兄さん! シチューできたよーっ」


 キッチンから、エプロンを付けたアサギがお鍋を持ってやってきました。


 魔王君と目が合ったアサギは、にっこりと笑いかけました。


「起きたんですね! ご気分はいかがですか?」


 人見知りをしているのか、魔王君は何も答えず、アサギから目を背けて再び窓の外に目を向けました。

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