①魔王と出逢ってしまった木こり――⑧


 身体の具合も気分も悪くはなさそうなので、ひとまず魔王君のことは放っておいて、アイとアサギはご飯の準備を進めました。お鍋から、ビーフシチューの香ばしい匂いが部屋中に広がります。


 食卓が整うと、アイとアサギは横並びに座り、正面に魔王君を座らせました。


「いただきますっ!」


 お腹がペコペコだったアイは、まだ熱いシチューを躊躇いなく口に運びました。アサギの作る料理はいつも温かく、優しく舌に馴染みます。


「あー、今日も美味ぇっ! アサギ、また料理の腕上がったんじゃねーか?」


「そうかな? あ、今回はね、玉ねぎが余ってたからいつもより多めに入れてみたんだ。兄さん玉ねぎ好きだもんね」


「ああ、道理で! いつも美味いめし作ってくれてありがとなっ」


「兄さんが出稼ぎに行ってくれてるお陰だよ。僕の方こそいつもありがとう。僕も早くいい仕事に就けるよう勉強頑張るね」


 アイとアサギが笑い合いながらシチューを食べている間、魔王君も黙ってシチューを食べていました。ちらちらと、アイとアサギを見比べながら。


 「ごちそうさまでした」と三人が手を合わせた頃、お鍋の中のシチューはすっかりからになっていました。

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