①魔王と出逢ってしまった木こり――⑤


 男の子に言われた通り、アイはアオイ森へと引き返しました。

 充分な木に囲まれた狭い通りで、男の子はアイの袖を引いて足を止めます。


「ここら辺でいいかなー……お礼する分くらいは足りそう……」


「おい、一体何する気……」


「いいから……黙って見ててー……」


 突然目を閉じた男の子は、何かを唱え始めました。

 すると、あら不思議。先ほどまで凪のようだった森に、すさまじい風が降りてきたではありませんか。

 風はいたちとなり、辺りの大木をいとも容易く倒していきます。アイが斧で何時間も相手にしなければならないであろう巨木すら一瞬で切り倒してしまう空気の刃に、アイは呆然と立ち尽くすしかありません。


 男の子が声を止めると、山へと帰っていくかのように、風は一斉にみました。


 驚くアイと目が合うなり、男の子は足元に転がる木を指しました。


「……どおー? これで、君が一ヶ月は働かなくてもいいくらいの量、稼げたんじゃない?」


「な、何だよ、今の…………魔法? オマエまさかっ……」


「うん……僕のおうち、あそこー」


 男の子は、薄っすらとナイトブルーに染まり始めた空の彼方を指します。高く高くに浮かぶ孤独な島を。

 そらにたった一つ浮かぶ島──グリーンアイランド。そこに大きなお城が建っていることは、世界中の誰もが知っています。そのお城には、世界中でたった一人だけ魔法を使うことができる魔王が住んでいることも。

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