①魔王と出逢ってしまった木こり――④

 まだしつこく唸り続けるお腹を押さえ、男の子は不服そうに口を尖らせます。


「なんでもうだめなのー……もっと蜂蜜と戯れたかったのにー……」


「なんでも何もねーよっ! もう金がねーのっ! 金がなきゃ食えねーのっ! っつか、どーしてくれんだよ⁉」


 艶のあるエメラルドグリーンを綺麗に結い、光沢のあるケープを着ている男の子に、アイはひっくり返しても何も出てこないボロボロの巾着袋を見せつけました。


「オレの今日の売り上げ、さっきのオマエの蜂蜜代で全部吹っ飛んだんだからなっ!」


「……売り上げ……?」


「オレが森で切り落とした木を売った金だっ! 生活費にするつもりだったのにっ……!」


「へー……そっか……君、木こりなんだねー……」


 アイが腰に構える木屑きくずだらけの斧を見て、男の子は納得したように頷きます。


「なーんだ……だったら簡単じゃーん……」


「は? 何が……」


「さっき僕を拾った森まで連れてってよー……そしたらさっきの蜂蜜代……んーん、それ以上のお金、返してあげるからさー……」


 のんびりとした垂れた瞳は、雲よりも見通せないグレーの光を映していました。

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