①魔王と出逢ってしまった木こり――③

++++++



 全く不思議なこともあるものです。

 アイは、目の前の机に並ぶからのビン達を、信じられない想いで見つめます。


「オイ……まだ食うのかよ?」


「この甘み、だぁいすき……」


 アイが森で拾った男の子は、ふところに持ち歩いているという愛用のスプーンで、何十分もの間蜂蜜を口に運び続けていました。うっとりと、まるで恋でもするかのような夢見心地な表情かおで。


 男の子を連れてアイが向かった先は、診療所ではなく、甘味処でした。

 メニュー表には目もくれず蜂蜜を注文したのは、もちろん甘いものが苦手なアイではありません。アイが拾った男の子です。アイの弟のアサギと同じくらい体が小さいのに、男の子はすごい勢いで蜂蜜の瓶をからにしていくのです。


「アイ君。大丈夫? これでもうおかわり七回目だけど」


 アイ達の座る卓に新しい瓶を持ってきたのは、お店の女給さんでした。


「あー……だよな。そろそろ止めてやんねぇと、さすがに腹壊すかもしれねーな」


「ううん。そうじゃなくて、お勘定。知ってた? 蜂蜜って意外と安くないんだよ?」


 女給さんからいい笑顔で伝票を見せられたアイは、更におかわりを頼もうとしていた男の子の手を大急ぎで払い落としました。そして素早く勘定を済ませると、男の子の首根っこを掴んで足早に甘味処を出ていきました。

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