〜本章#6〜

 階段が映されている。ぶつぶつとお経を唱えるような声が聞こえてきた。独り言のようだ。

「ほらまた新聞だ。新聞が落ちている。日付を見ろ。ここに閉じ込められてからまだ1週間も経っていないのか。本当だろうか? 千年は過ぎたはずだ。腹が減らないように。喉が渇かないように。体が老いぼれないように。自分を見失わないように。それだけための千年だった……あぁ、早紀子とみゆに早く会いたい……」

 いつの間にか、あの男が階段に座っていた。黒いスーツ姿をしている。手には何日も前の新聞が握られていた。

 僕は、さっき花子さんから渡された折れた写真を取り出した。『元気の素 ママとみゆより』と裏に書かれている。写真を開く。男と、その妻と娘が写っていた。女の子は美紀と同じくらいの年に見えた。背景はとてもきれいな青空だった。

「お前が美紀を殺した……」

 僕が言うと、男は驚いた様子だった。聞こえているらしい。

「幻聴か? あの時のような? どうして幻聴が聞こえる……」

 その時、バンッと大きな音がして、照明とテレビが同時に爆発した。テレビの残骸が燃えている。暗い部屋の中で、僕はあれっと思った。ここにいるのが怖い。なぜかわからないけど、とにかく怖い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る