第17話 賞金首ギル

 こんなことを自分で言うのも恥ずかしいが、わたしは貧乳だった。


 死ぬ前の高校生だった頃はAカップだったのだ。


 中学生になってもしばらくブラジャーなどしていなかった。それくらい貧乳だった。


 だが、転生してからは推定DかEはあるくらいのサイズになった。


 ミアにはよく羨ましがられた。


「そんな大きくて形がいい胸になりたい」と。


 どうやら転生者には顔だけでなくバストのサイズにまでボーナスが付くらしい。


 さて、どうしていきなり胸の話などをしているのかというと……。


 普段ペンダントにしているペンデュラムが急にわたしの胸のタニマに食い込み始めたのだ。


 痛いので取り出してみると、いる!


 ペンデュラムの水晶がわたしの後ろを指している。


 転生者だ。転生者が近くにいる。


 その転生者を視認できたとき、わたしは気が付いた。


 黒髪黒目、異様に整った顔立ち、ただし纏う雰囲気の邪悪さは隠しきれない。人相描きにあった通りだ。


 ギル・バートレット。


 冒険者ギルドで見かけた賞金首の特徴そのままだ。やはり転生者だったか。


 わたしは自分に気配消去(ハイディング)の魔法をかけているのでクーディックはもちろん、背後からの賞金首からも気取られていない。


 というか、こいつ転生者のくせに同じ転生者の魔法も見破れないのか。


 そうこうしているうちにクーディックはゴブリン三匹の首を無事に革袋に入れ、上機嫌で持ち帰ろうとしていた。


「よう、エルフの坊や。依頼達成おめでとさん」


「え?」


「けど、残念だったなあ。お前は冒険者にはなれねえよ。ここで俺に殺されちまうんだからなあ!」


 まずい。ギルの狙いはクーディックだった。


「いや、とっ捕まえて売り払ったほうが旨いか? なにせエルフの子供だからなあ。おっさんでもおばはんでもスキモノが買うぜえ」


「ひ、ひええ……」


 クーディックは怯え切ってしまっている。ギルは自分の体の周りに炎の球をいくつも出していたが、すぐに消して風の刃に切り替えた。


 あんなに大量の魔法を同時に行使しつつ、しかも瞬時に属性を変更させるとは。


 わたしにはまだあそこまでの芸当はできそうにない。


「まずは服を切り裂いてオスかメスか確かめてやる」


 ギルはクーディックに風の刃を飛ばし、服だけをズタズタにしようとした。


「待ちなさい!」


 わたしはハイディングを解き、クーディックの前にテレポートする。


「リンカさん!」


 代わりにわたしの服が切り裂かれる。しまった。テレポートと同時だったので身を守る魔法を纏うを忘れていた。


「ほ? どこから出てきたんだべっぴんさん」


「あんた、賞金首のギル・バートレットね。なんでクーを狙ったの?」


「俺も賞金首になってから顔を売れちまって好き放題できなくなっちまったのさ。ほんで冒険者志望の奴らがよく来るここで『狩り』を楽しんでるってわけだ」


「『狩り』……?」


「初心者ならゴブリンに勝てなくて事故っちまったって処理されるだろ?」


「そう……、あんたもこの世界で好き放題してる転生者って訳ね」


「お、嬢ちゃん、どうして俺が転生者だってわかったんだい?」


 一石三鳥だ。転生者を殺せる。賞金も手に入る。クーディックも守れる。


「リンカさん! そいつも転生者ならボクも戦う!」


「クー! 下がってなさい! あなたがいても足手まといよ!」


「こんなとこに強い冒険者なんて来ないからなあ! まずは嬢ちゃん俺好みだから殺す前にたっぷり犯してやる!」


「やかましいわ!」


 わたしは山肌からいくつもの石の矢を生み出し、ギルを突き刺そうとする!


 しかし、ギルはすぐにわたしの後ろに転移し、耳元で囁く。


「それにしてもいい胸をしているねえ」


 今のわたしは服を引き裂かれたので下着丸出しだ。


 思わずテレポートして、胸を揉もうとしていたギルの手から逃れる。


 手加減して勝てる相手じゃない!


 あまり頼りたくないが、チート全開で戦うしかない!

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