第18話 凍る空気

 わたしはチート魔法を全開で、ギルの足元の地面を消す魔法を詠唱する!


 しかしギルは「おっと」などと言って宙に浮かぶ。


 そのままの勢いでわたしに風の刃を飛ばしてきた。


「まずはその邪魔な布切れを全部切り裂いてやるよお!」


 この期に及んで、こいつはわたしを脱がすことにこだわっているらしい。


 魔法で刃を防御すると、無詠唱でエネルギー流を極限まで細くして相手の心臓を狙ってやった。


「うおっ!?」


 相手の魔法防御を突き破り、咄嗟に心臓を庇った腕に穴が空く。


 やった! ダメージを与えられた!


「やけに洗練された魔法だね。さては君も転生者なのかなあ?」


 腕の傷を治しながらギルが言う。


「違うわ、ただの賞金稼ぎよ」


 こいつにわたしが転生者だとはバレない方がいい。油断してくれるだろうから。


「やれやれ、有名人になっちまうと辛いねえっ!」


 ギルは穴が空いていた右手を振るい火の玉を飛ばしてきた。


「一回気絶させてから脱がしてやる! そらそらそら!」


 わたしは狼の群れと戦った時を思い出し、氷の壁を自分の周りに張り巡らせた。


「アブソリュート・ゼロ!」


 辺りの空気を凍らせて作った、絶対零度に近い低温の氷だ。そう簡単に解けはしない。炎の球が霧散していく。


 防御の次は攻撃に転じる。氷を砕いて刃に変えて飛ばした。


 ギルはまた空間転移し、わたしの背後を取る。


 しかし、そこでギルの顔がこわばった。


「鏡?」


 そう、身の防御を捨てた代わりに空気中の水蒸気を固めて鏡面を作り出しておいたのだ。


 当然わたしがいるのはその後ろ。


 こっちは空気の氷をまとわりつかせた右腕で、とんでもない強度になっている右手を、ギルの心臓目掛けて突き出す。


 正直、かなり無茶をしている自覚はある。


 だが、おかげでギルの左胸を深々と突き刺すことができた。


 鏡像作成と空気の冷却、二つの魔法の組み合わせでギルを倒すことに成功する。


「がはっ!?」


 ギルに致命傷を与えたことを確認すると、わたしはすぐに右手を引き抜いた。


 さっさと温めないと二度と使い物にならなくなりそうだ。


 鏡像を解除し、空気の凍結も解除すると、炎の魔法と治癒の魔法を同時に右腕にかける。


「ボクも手伝います!」


 ことが終わったと悟ったクーディックが走ってきた。


 暖かい魔法をかけてくれる。


 しばらくするとようやく、右手の指先がピクリということをきいた。


 そして、クーディックはようやくギルの死骸を見る。


「本当ににありがとうございました。心配してついてきてくれてたんですね」


「ごめんなさいね、思ったより強いから安心してたけど。おかげで転生者も一人殺せたわ」


「あのまま戦ってたらボク、きっと犯されてました」


「そうね、男でも平気でカマ掘りそうなゲス転生者だったわ」


「いえ……、こんな時に言うことでもないですけど、ボク、実は女なんです」


「はあっ?」


「本当の名前はクーディリア。お姉さま、これからも変わらずクーとお呼びください」


 そういえば、出会った日にそんなそぶりはいくつかあった。しかし、まさか本当に女だったとは。


「ちょっと待ってよ、その『お姉さま』っていうのはなに?」


「命の恩人ですから。それにこれから冒険者としてお世話になる身ですし。最後のゴブリンを倒すときも助けてくれたんでしょう?」


 う……。別に男であってほしかったわけではないが、変な同行者ができてしまった。


「というか、ルイシーナさんも言ってた通りまだ第一次性徴が来てないから外見で性別の区別がつかないんですけどね。男姿のほうが安全だったので」


「そうよね。わたしもここまで貞操の危機を味わったのは産まれて初めてだったわ」


 そこで、転生変態ヤロー、ギルのことを思い出す。


 棒でつついたりしてみても間違いなく死んでいるようで安心した。


 風の刃の魔法で首を切断する。


「そうだ、ボクもゴブリンの首を取ってきます」


 エルフの童子改め童女、クーがたたたっ、と駆け出していき、革袋を抱えて戻ってきた。


 これでギルの首を冒険者ギルドに持って帰れば金貨二百枚が貰える。


 そのお金で服を買い直して、クーには可愛くて清潔な服でも買ってあげて美味しいものを食べよう。


 下着姿の美少女が首を持って歩いているさまはさぞ人目を惹くだろう。


 そして、相手が何であれ、しばらく首を切り落とすさまは見たくない。

 

 わたしは疲れとともにそんなことを考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る