第16話 忍び寄る影
ルイシーナさんは諭すようにクーディックに言う。
「まず、自分がダークエルフとエルフのハーフだなんなんてことはあまり触れ回らないことね。知られたら国の騎士団か、人攫いか、冒険者か、どちらにしても捕まって売り飛ばされるわ」
わたしはずいぶんと厄介なものを抱え込んでしまったらしい。
「幸い今は普通のエルフにしか見えないけど、年齢とともにダークエルフの特徴も出てくるでしょうね」
「そんなにクーディックは珍しい存在なんですか?」
「好事家なら一生首輪をつけて飼いたがるくらいには。リンカちゃん、お金が欲しいならあなたが売ることも選択肢に入るわ」
「えっ、まさか、そんなことしません」
クーディックはこの世界で初めて出会った転生者を憎む同志なのだ。
できれば一緒に仇を取ってやりたい。
「そう」
ルイシーナさんはそこで言葉を切ると、少し考えこんだ。
「それならあとは外でしてもいい話ね」
立ち上がり、受付まで歩いていく。
「依頼を受けに来たんでしょう?」
そうだった。転生者を探す前に少し稼がなくては。
「ドロシー、お客さんは来た?」
「ええ、パーティが一組、オーク退治の依頼を受けていきましたよ」
ルイシーナさんが来るとドロシーさんはすぐに席を立って交代した。
「あの、少し依頼を見てきていいですか?」
わたしは自分にちょうどいい、チート魔法を使わなくてもこなせるような依頼の張り紙を探し始める。
お金欲しさにあまり難しい依頼を軽々とこなしていては不審がられるだろう。
薬草摘みとか馬車護衛とかそんな簡単そうな依頼はないだろうか。
そんな心中とは裏腹に、やたらと高い賞金、金貨二百枚がかけられている賞金首を見つけた。
黒髪黒目の男性で、顔立ちはいいが、凶悪に描かれた「ギル・バートレット」という賞金首だ。
種族は人間、得意なのは魔法。どこかからふらっと現れ、国都で暴虐の限りを尽くして賞金首になったという。
もしかしたら転生者かもしれない。
探してみようか。賞金首になってからは狩られないように鳴りを潜めているようだが。
そんなことを考えていると、クーディックが歩いてくる。ルイシーナさんと話をしていたが終わったらしい。
手にはあのゴブリンの首を入れる用の革袋を持っている。
「リンカさん、ボクもゴブリン三匹討伐の依頼を受けましたよ。これからこなしてきますね」
「ちょっと、あんたなんかが一人で行ってゴブリンに勝てるの?」
「大丈夫ですよ、簡単な魔法なら使えますし、父の形見のナイフもありますから」
「心配ね……、ゴブリンなら山肌の洞窟地帯によくいるけど気を付けるのよ?」
「はい!」
心地よい返事を返してクーディックは駆け出してしまう。
わたしは心配なので後ろからこっそり着いていくことにした……。
予想に反して、クーディックはゴブリンをあっさり倒してのけた。
昼間なのに二匹洞窟外を巡回していたゴブリンに先制攻撃で炎の球を飛ばし、熱さに苦しんでいるうちにナイフをそれぞれの心臓に突き立てた。
そして、動かなくなったゴブリンたちの首をのこぎりでゴリゴリと切り始める。
首を革袋に入れ、今度は小石を暗い洞窟の中に投げ入れた。
すると、寝起きっぽいゴブリンがまた出てくる。今度は少し大柄だ。
クーディックはそいつにも魔法を叩き込もうとするが、今度は避けられた。
「げっ」
言わんこっちゃない。
ゴブリンが持っていた棍棒がクーディックの腹を一撃する。
それで小さな体躯が吹き飛び、さらに追撃を受けそうになっていた。
「世話の焼けるっ」
わたしはクーディックに見つからない遠くから見ていたが、風の刃を飛ばし、ゴブリンの腕を切断する。
それでクーディックは戦意を取り戻し、雄たけびを上げながら飛び上がってゴブリンの脳天にナイフを叩き込んだ!
これで三匹。
クーディックはゴブリンの腕がいきなり切れたことを不思議がっていたが、躊躇なくまた首を切り始める。
それでほっとしたわたしは、胸元のペンデュラムが少し反応していたことに気が付かなかった。
かなり遠くの後ろから黒髪黒目の襲撃者が迫っていることをまるで悟れなかったのだ。
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