第12話 最初の標的
わたしは受付のお姉さんからゴブリン討伐の依頼を受けたところでふと思い出した。
「お姉さん、『ウォルフィガング・シード』って名前に聞き覚えはありませんか?」
「ごめんなさい。ちょっと聞いたことないわね。その人がどうしたの?」
「わたしの友達を殺した仇なんです。国都に行くって言ってたから……」
「もしこのギルドに来たら覚えておくようにするわ。外見の特徴は?」
あのときは混乱してたからよく覚えてないけどできる限りの特徴を告げる。
「えっと、黒髪黒目で、黒いローブを着てました。気持ち悪いくらいに整った顔で、一人称は『僕』でした」
「分かったわ。見つけたら仇を取るつもりなの?」
「そのつもりです」
「人の生き方に文句をつける気はないけど、復讐は何も生まないわよ」
そんなことはわかっている。でもわたしが憎んでいるのは何もウォルフ一人ではないのだ。
わたし自身も含めた、転生者そのものを、このブレイブランドからすべて駆逐してやる。
「あらら、怖い顔しちゃって。よっぽど大切な友達だったのね」
「ええ。では、ゴブリン退治行ってきます」
そう言ってわたしは踵を返した。
とはいってもまずは聞き込みからだ。
ゴブリンが住んでいそうなところをギルドで聞いて回ってみる。
すると、洞窟区という山肌にいくつもの洞窟が口を空けている地区の情報が得られた。
ついでに「ゴブリンに捕まると犯されたうえで食われるぞ」と余計な心配までされる。
憎たらしいことに、わたしにもチート魔法が使える。ゴブリンごときに負けはしないだろう。
教えられた山肌の洞窟まで一人でやってくると臆することなく足を踏み入れた。
すると、なんとペンデュラムが反応する。
洞窟の奥を水晶の先が指している。
まさかこの中に転生者がいるといるというのか。
中は真っ暗だったので右手に光の魔法を灯し、進んでいく。
すると、足元にはゴブリンを含めた様々ななモンスターの死体が転がっていた。
どれもこれも黒焦げか四肢のどこかを切断されており、下手人の残酷さが伝わってくる。
「ヒャッハァ! どいつもこいつも弱すぎて相手にならねえ!」
不意に、洞窟の奥から狂ったような人間の声が響いた。
「チート魔法最高だぜ! この洞窟のモンスター全部狩りつくしてやる」
間違いない。この声の主が転生者にしてここのモンスターを殺して回っている奴だ。
わたしは灯りを弱め、なるべく足音を殺して近づく。
相手は光を宙に浮かせて灯りにしているらしく、すぐに見つかった。
「お?」
「あんたがそうなのね」
「お、お、お? 人間? それも飛び切りの美人じゃねーか! こんなところに一人で来たのかい?」
「お互い様じゃない」
「あ、俺? 俺は無敵だから。守ってやるからついておいでよ」
そう言って、やや釣り目のTシャツにジーパンといういでたちの美形の少年はわたしに背を向けた。
わたしは悟られないように脳内で詠唱し、その辺の岩肌から石の刃を作り出す。
そして、その刃を転生者の少年の心臓めがけて飛ばす!
ザスッ!
あまりにあっさりと石の矢は少年の胸を貫いた。
「な、なんで……? 俺は君に何も……」
「あんた、転生したてね。力の振りかざしっぷりと服装で分かったわ」
石の刃が心臓に刺さったまま少年は必死で回復魔法をかけようとしている。
「無駄よ、いくら転生者でも心臓を貫かれて生きていられるわけがない」
これは実験だった。
これから転生者を殺すときはミアと同じように心臓を貫いて殺してやる。でも心臓を貫かれても復活できるようなチート能力の持ち主もいるかもしれない。
「これから死ぬあんたに一応殺した理由を教えておいてあげる。転生者はこの世界に要らないのよ」
バタリ、と、後ろ向きに倒れた転生者の少年はまだ息があるようだった。
「そん、な……、せ……、かく転生したのに……」
少年は口から血の泡を吹きながらそんなことを言った。
ざまあみろ。
「別に死ぬのは怖くないでしょ、一度経験してるんだから。せいぜい苦しみが長く続きますように」
わたしは死にゆく少年を放って洞窟の奥に進んだ。
「まさかゴブリンを全滅させてないでしょうね、こいつ」
生まれて初めて、人を殺したことに大した罪悪感を感じない自分に驚きながら。
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