第13話 冒険者ランク
わたしことリンカ・ネイシは洞窟で少年の狩り残しのゴブリンの首を何とか集めた。
ゴブリンの死体そのものはそこら中に転がっていたんだけど、その首を風の魔法で刎ねても革袋には入らない。
やはり袋に魔法がかかっていて自分でゴブリンを殺さないといけないみたいだ。
という訳で、かなり数は減らされていたが何とか生き残りのゴブリンを探し出し、まず出会い頭に消滅の魔法を浴びせてやる。
転生者のチート能力というものはわたしが思っていたより「なんでもあり」のようで、首から下に「消えろ!」と光をかざすとボトリと首だけが落ちる。
ゴブリンの特徴は元の世界のファンタジーものゲームやラノベで出てくるものそのもので、特に見極めなくても分かった。
「これで三匹目か」
わたしは最後のゴブリンの首を革袋にいれると回れ右して帰路につこうとする。
ところがこの首というシロモノ、意外と重い。
魔法が使える以外、体力は普通の十五、いや十六歳の女の子が持って歩くにはちとしんどかった。
「浮かべ!」
革袋が浮かぶところをイメージして魔法を唱えるとぷかりと浮かぶ。
「ついてきなさい」
こうしてわたしは気味の悪いゴブリンの首が入った革袋を浮かべながら洞窟の入り口へと向かった。
「う”」
途中、魔法の光にあの転生者の少年の死体が転がっていた。
そういえば殺してそのまま放置したんだっけ。
仮にも人間なので発見者が身元捜しでも始めたら厄介だ。
消滅の魔法で隠ぺいしておこう。
「消えろ」
少年の死体を光の中に消すと、また革袋を浮かべて歩き出す。
「はい、ゴブリンの首三つ、確かに確認しました。これで晴れてあなたも冒険者です」
冒険者ギルドのお姉さんは慣れた様子で革袋からゴブリンの首を出して微笑んだ。
眼鏡をかけた二十代前半くらいの、左目もとにほくろがある美人なのだが、こんな不気味なものを前に満面の笑みを浮かべられるとやはりただ者ではないのだと思い知る。
「これでF級冒険者ですよ。そこから功績に従ってE、D、C、B、A、S、SSと上がっていくから頑張ってくださいね。この紙にサインをお願いします」
言ってお姉さんは紙を手渡してくる。
そこには「仲間が死んでもギルドに復讐するな」「他のギルドの冒険者と揉め事を起こすな」などのルールが書かれているようだった。
相手が転生者なら揉め事を起こす気満々だったけど、事を荒立てないように「Rinka Neishi」とローマ字でサインしておく。
この世界で使われている言語は日本語そのものだが、文字はローマ字だとミアと暮らすうちに知った。
ミアのことを思い出すとまだちくりと胸を刺す寂しさが蘇る。
この痛みがある限り、わたしはこの世界で生きていけるだろう。
「はい、これがあなたの名前が書かれたこのギルドのエンブレムよ」
ミアのことを思い出している間、お姉さんは金属製のカード状の何かに魔法か何かを唱えていたようだ。
受け取って見るとわたしの名前と大きく「F」と書かれていた。色は赤銅色。きっと冒険者ランクが上がっていくにつれて銀色、金色になっていくのだろう。
「そして、お待ちかねのゴブリン退治の報酬、銅貨十枚。初依頼達成おめでとう」
ジャラリ、と音を立てて、机に銅貨が置かれる。
わたしはそれを村長さんが渡してくれた革袋に入れると、ギルドのお姉さんに別れを告げた。
宿代とプラスマイナスゼロか。
手持ちの硬貨の数を数えながら大通りを歩いていると、突然手の中の革袋が消える。
「あれ?」
スられた。
まずい! あれはわたしの全財産なのに。
慌てて前を見ると、わたしの袋を持って走っている少年――いや年齢的に十歳くらいの童子――が見えた。
ペンデュラムは特に反応はない。
ただのスリか。
「止まれ!」
わたしはマヒの魔法をその童子めがけて放つ。
「がっ」
袋を握りしめたまま足を止める少年。
こんな往来で高度な魔法を使ったせいか少し人目を惹き始めている。
「返してもらうわよ、スリは相手を選ぶのね」
わたしは袋を取り返すと、その童子の耳が尖っていることに気が付いた。
まさかのまさかだけど、こいつって、エルフ、だったりする?
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