第10話 転生者殺し誕生
勝手なことを言い残し、転生者の少年、ウォルフは去った。
たしか国都に戻るとか言っていたが、追うよりも前にやることがある。
「ミア、ごめんね。わたしがもっと強かったら守ってあげられたかもしれないのに」
わたしはミアのなきがらまで歩いていき、魔法で出した水で口元の血を洗って顔を綺麗にしてあげる。
そしてお姫様抱っこの要領で抱えると、集まってきた野次馬の中から村長を見つけ出した。
「リンカ、いったい何が起こったんだ? 魔物が攻めてきたのか」
「村長、魔物にではありませんが、ミアが殺されました。弔ってあげてください」
「おおなんということだ。この村にはただでさえ若者が少なかったというのに」
ミアが死んだことが分かると、村人たちの中から嗚咽が聞こえた。
この鳴き声こそ何よりのレクイエムだ。ミアが村で愛されていた証拠なのだから。
ミアの葬式は滞りなく行われ、遺体はミアの両親も眠る村の共同墓地に葬られた。
転生者さえいなければ……。
そう思うとわたしは自分で自分が許せなくなる。いっそミアの後を追うことさえ考えた。
「だけど、まだだ」
ミアの墓前でわたしは誓った。
ミアを殺したウォルフを含むこの世界に転生してきた奴らを根絶やしにしてやる。
そう、わたしは転生者殺しの転生者になるんだ。
幸い、転生者を指し示すらしいペンデュラムは今も手元にある。「神」とやらが与えたチート魔法の能力もある。
そうやって転生者を殺していけば必ず、このブレイブランドに転生者を送り込んでいる元凶がわたしを止めに来るはずだ。
そいつも殺したら、このルーグ村に帰って来て自らの命を絶とう。
二度目の転生はないだろうけど、せめてミアのところに行きたい。
「ミア、待っててね。やることやったらわたしもそっちに行くから」
「リンカ、本当に行ってしまうのかい?」
「はい、やりたいことができましたので」
「ミアのことは残念だったが、君が責任を感じることはないのでは……」
去り際に村長がそう言ってくれるが、わたしの、わたしたちの責任なのだ。
「せめて、これを持って行ってくれ。村の者たちからの餞別だ」
銀貨と銅貨が入った革袋を手渡される。よかった、これで国都へは馬車で行けそうだ。
「ありがとうございます。それから、村の人たちにもお世話になりましたと伝えておいてください」
「ああ、いってらっしゃい。ミアが持っていた畑は幸い無事だ。村の者たちに世話させよう。やりたいことが終わったら帰っておいで」
父親を知らないわたしには初老の白髪交じりの村長が一瞬父親のように思えた。
父に見送られるのはこんな気分なのかと、今更ながらにこの村に自分が愛着を持っていたことを自覚させられた。
だからこそ、許せない。
あのウォルフ、いや転生者さえいなければミアのこの村での暮らしは続いていたはずなんだ。
何が「僕のために用意された世界」だ。
すべての転生者がそんな風に考えているなら鉄槌を下してやる。
わたしは一人国都行きの馬車に乗り、気持ちを新たにした。
少なくとも、あのウォルフは国都にいるはずだ。きっと冒険者ギルドか何かに登録していて、あのオーガロード討伐の依頼を受けたんだ。
その足取りを追うのはさほど難しいことではないだろう。
「リンカ!」
不意にミアの声が聞こえた。
わたしはミアと同じベッドで寝て、そして目を覚ました。
「ミア! ミア! 生きてたんだね!」
「何言ってるの、リンカを置いて死んだりしないよ」
ああ、すべて夢だったんだ。私は明日からもミアと暮らしていくんだ。
畑を耕して、作物を売って、買い物をして、料理をして、二人で食べて、お風呂に入って、狭い一つのベッドで寝て……。
ゴトン!
荷台が揺れる強い衝撃が来て、わたしは幸せな夢から目を覚ました。
知らぬ間に頬に伝っていた涙を拭う。
そして、約一週間の行程の後、馬車は国都レルランにたどり着いた。
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