第9話 転生者VS転生者

 ミアの手が床にポトンと落ちる。


「あ、あ、噓でしょ……、ずっと一緒って約束したじゃ……」


 ミアはもう何も言わなかった。二度とその目も口も開くことはなかった。


「いやあっ、目を開けて! もう一度笑ってよ、誕生日を祝ってくれるって言ったじゃない!」


 後ろの自称勇者がまた軽薄に言うのが聞こえた。


「さすがに死者蘇生の魔法はないよ。意識と記憶を保ったアンデッドにすることはできるけど」


 こいつ。


 こいつがミアを……。


 わたしはようやく怒りを覚えてきた。


「あのオーガロードがこの村で暴れまわってたらこの程度の被害で済まなかった。むしろあんたは生き残った幸運を喜ぶべきだ」


 この程度の被害? この程度?


 ミアが死んだことがこの程度?


 わたしは思わずその少年に駆け出していた。


「ミアを、ミアを返せ!」


 相変わらずペンデュラムはこの少年を指し続けている。


「おっとっと。さっきも言ったじゃないか。もう死んでしまっている者は蘇生できない。いくらこの世界でもそんな魔法はない」


 この世界。


 こいつはわたしと同じ転生者なんだ。


「なんで!? あんたもこの世界に転生してきたんでしょ? この世界の人を殺して、何も感じないの?」


「この世界は僕のために用意された世界じゃないか。元々僕が満足するためにあるんだ」


「そう……」


 わたしは切れた。


 人間、怒りが一定を通り越すとかえって冷静になってしまうものなのか。


 わたしは転生者。こいつも転生者。


 なら、わたしにもとんでもない魔法が使えるはずだ。

 

 こいつはわたしが転生者なのを知らない。


 ミアを殺した罪を命で償わせてやる。

 

 わたしが、ミアが死んだときのように心臓を貫いて殺すことにしよう。


 最大火力の魔法でチリになんかしてやるもんか。


 色んな考えが脳内をぐるぐると駆け巡る。


 瞬間転移魔法。使えるか、このわたしに。


 奴の間合いに瞬時で飛び込み、この、ミアを貫いた血塗れの木片で……。


 わたしは何気なく拾っていた木片に目をやる。


「じゃあ僕は国都に帰って報酬をもらうとするよ。弁償は一日くらい待ってくれ」


「待ちなさい」


(瞬間移動、テレポーテーション……)


 わたしが脳内で唱えると瞬時に仇の背後に移動できた。


 そして、思いっきり木片を心臓めがけて突き立てる。


「おっと!」


 かわされた!


 相手も瞬間移動したのだ。


「おかしいな、どうして転生者位しか使えないはずの瞬間移動をあんたなんかが使えるんだ?」


 答えてやる義理はない。


 わたしは木片を放り出し、氷の矢を生み出すと投擲した。


「詠唱破棄、いや、脳内詠唱かな? そんな真似ができるとなるとよほど高位の魔法使いか転生者だね」


「だから何だっていうのよ!?」


 飛んできた氷の矢を掌の炎で溶かすと、少年は言った。


「敵に回すと厄介そうだ。仲間になろう」


 わたしは呆気にとられる。


 ミアを殺しておいて、言うに事を欠いて「仲間になれ」だと?


「お断りよ、あんたは今ここで殺す」


「どうやら転生して日が浅いようだ。僕に着いてくればもっとすごい魔法を教えてあげられるよ? 例えばさっきオーガロードを一撃で倒したような……」


「殺すって言ってるでしょうがあ!」


 今度は炎の弾丸を何個も生み出して放つ!


「やれやれ、話し合いにもならないようだね」


 少年はまた瞬間移動した。わたしが放った火球は村の民家に着弾してしまいそうになる。


「消えて!」


 叫ぶと火球はすぐに消えた。


「魔法の解除もお手の物か、やはり転生者だね。僕はウォルフィガング・シード。長いからウォルフでいい。友達が死んじゃった心の傷が癒えたらまた会おう」


「またなんてないわよっ!」


「今は頭に血が上りすぎてるようだ。君の名前とか転生前のこととか色々話したいけど、機会を改めよう。早く国都に帰りたいんだ」


「逃げる気?」


「転生者はみんな美形らしいけど、君なら僕のハーレム一号にふさわしい。容姿も好みだし実力も伴ってる。また会おう」


 言うと少年――ウォルフはおそらく国都へ転移していなくなってしまった。

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