第8話 惨劇
「今日はリンカの誕生日だね」
朝食を一緒に食べていると不意にミアがそんなことを言いだす。
はて、わたしの誕生日は元の世界で12月なのでもうとっくに過ぎているはずなのだが……。
「昨日言ったじゃない。リンカがうちに来てから今日で一年だよ」
「だから、今日を誕生日にしちゃうの?」
「いいじゃない。だってリンカ、本当の誕生日教えてくれないんだもの」
それはこの世界と元の世界の暦が違うからだ。説明しようにもうまくできない。
「なによりあたしが祝いたいの! ケーキとか焼いちゃうから夕飯は期待しててね」
「とかなんとか言って火とか水はわたしの魔法に頼るくせに」
「いいじゃない、もうリンカなしの家事なんて考えられないよ」
わたしももうミアがいない生活なんて考えられない。
これからも、何が起こってもずっとミアとは友達でいたい。
そこへ、カンカンカンカン!というモンスター襲来の警告音が村に響く。
「えっ、昨日自警団が見回ったんじゃないの!?」
ミアが驚いて立ち上がった。
「リンカ、外に出ちゃ駄目よ! 自警団の人が何とかしてくれるまで家に立て籠るの!」
「う、うん」
どうしよう。
わたしも自警団に加勢したほうがいいだろうか。昨日の様子からするとわたしがいた方が安全そうだ。
次の瞬間、
ドッ!
と、衝撃が走り、冗談のようにミアの家は木っ端微塵に吹き飛ぶ。
わたしは思わず魔法で自分の身を守っていた。
よくわからないけど魔力かなにかで自分を覆ったのだ。
「はい、一丁上がりっと」
そこに軽薄そうな男の声が響く。
「おやぁ、家を一つ壊しちゃったかあ。ま、後で弁償すればいいか」
わたしは何が起こったかも分からないまま、胸のあたりでなにかが動くのを感じた。
ビリッ!
ペンダントにして持っていたあのペンデュラムがわたしの服を引き裂いて声の主を指す。
ミアの無事を確かめたかったけど、わたしの目は先にそっちを見てしまった。
巨大なモンスターがそこにいた。いや、すでに息絶えたまま立っている。
そして、そのモンスターを魔法一撃で倒したであろう、黒マントの男性、いや、年齢的には少年が手をこちらに突き出していた。
超が付くほどの美形だったが、厭味ったらしい表情のせいで好感は全く湧かない。
ペンデュラムは間違いなくその美少年を指している。
「あ、あ、あんたは何者!?」
「お、生存者。ケガとかしちゃってたら僕のサイキョーな回復魔法で治してあげるよ」
「何者かって聞いてるのよ?」
「勇者様さ。聞いたことないかい? 別の世界からサイキョーな勇者がやってきて世界を救ってくれるって。僕はその勇者って訳」
今理解した。
このペンデュラムは転生者を指し示すアイテムだったんだ。
それが間近にいるからこんなに反応してるんだ。
「大丈夫。このオーガロードを倒した報酬が出たらこんな村一つくらい再建できるくらいの弁償はさせてもらうから」
そこでわたしはやっとミアのことを思い出した。
あたりを見渡すと、家の木片が左胸に突き刺さり、吐血しているミアの姿が目に入った。
「いやあああああああああああああっ!」
わたしは悲鳴を上げ、ミアの傍らに寄り添う。
「大丈夫っ!?」
「う……」
よかった、まだ息がある。
わたしはありったけの魔力を右手に込め、癒しの光をミアの傷口に放った。
「あれ……? 僕なんかやっちゃいました?」
軽薄な声が響く。
「黙って!」
わたしは強く言い、ただただミアの傷が治ることを願った。
生きている。ミアはまだ生きている――。
「り、んか……」
か細い声でミアが呟く。
木片が傷から抜け、ふさがっていった。
助かる! きっとミアの命は助かる!
「あー、犠牲者が出ちゃってたかあ。まあ手加減できるモンスターじゃなかったし、許して」
少年が軽い口調で言う。「勇者なんだったらミアの治療を手伝え」と思ったのは後のことだ。
「かはっ」
ミアがまた喀血する。そんな、傷は治ったはずなのに。
そして、ミアは最期の言葉を発した。
「リンカ……、たの、しかっ……」
ミアの瞼が閉じる。それからミアの瞳は二度と開くことはなかった。
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