第7話 儚い約束

 氷の壁から生じた刃が狼たちに突き刺さり、


「ぎゃおーーーーーん!!」


 と断末魔を上げ絶命していく。


 とりあえず自分が噛まれたりしていないことを自覚した自警団たちは目の前の光景を信じられないという様子で見つめていた。


 まだ動けた狼たちは慌てて森の中へ逃げようとする。


 元気になって繁殖したりしても嫌なので、炎の矢で追撃してとどめを刺しておいた。


 これで少なくともこの狼たちが村に来ることはないだろう。


「お、おい、嬢ちゃん。何をしたんだ?」


「何って、魔法を使ったんですけど」


 出会ったのが、あの程度で倒せる雑魚モンスターでよかった。


「こんなに強いなんて聞いてなかったぞ!」


「はい。わたしも初めてあそこまで攻撃的な魔法使いましたから。やってみればできるものなんですね」


「いや、『なんですね』て。そこまでの実力を隠し持ってたんですかリンカさん!?」


「あー、わたしも自分がどれくらいの魔法使えるのか知らなくて、試してみたらうまくいったんです」


「リンカちゃんって、巷で言われてる別の世界からやってきた勇者なんじゃ……」


 ぎくっ。

 勇者かどうかは置いておいて、異世界転生してきたのは事実だからなあ。


 けど、それを正直に言うわけにもいかない。今のミアとの生活を壊されたくないから。


 ミアがわたしを見る目だって変わるかもしれない。それが、怖い。


「そんなわけないじゃないですか! まぐれですよまぐれ! まぐれで助かったんだからこれからどうするか考えましょうよ」


「とにかくリンカさんがいてくれたら村にモンスターが来ても平気ですね!」


 青年が大きくはしゃぐ。


「リンカちゃんの魔法を当てにしても、これ以上進むのは確かに怖いな」


 リーダーがそう言ってくれたので、わたしも同意した。


「そ、そうですよ。きっとさっきのはわたしの魔力かなにかが満タンだったからできたんですよ。次もああ行くとは限りません」


 実は魔力、いわゆるMP的なものは体から一切減っている気はしなかったけど、今日は帰るのに賛成だ。



 そして、村に帰り着き、無事に帰ってきた姿を見るなりミアが抱き着いてきた。


「もう! すっごく心配したんだからね! モンスターには遭わなかったんだね?」


「えっと、狼が出てきたけど自警団の人が追い払ってくれたわ」

 

 咄嗟に嘘が口をついて出た。この世界に来てからどうも嘘をつくことが増えた気がする。


 自警団の人には今日のことを村に触れ回らないように言っておいたけど、さて、どうなることやら。


「それで、リンカはどこもケガしてない?」


「全然平気」



 ちなみにその夜、ミアはお風呂でわたしの体をまじまじと眺めて本当に無事か確かめていた。

 

 女同士とはいえ、そんなにじっくりと肌を見られると恥ずかしい。


 それにしても自警団の人には転生者なんじゃなんて怪しまれるし、ミアにはこんなに心配をかけるし、少なくともしばらくは今日みたいなことはやめておこう。


 そろそろ二つ目のベッドが欲しいなとか思いながら、わたしはミアと床に就く。


 と、不意にミアが言う。


「明日でリンカが来てくれてからちょうど一年なんだよ、覚えてた?」


「ちょうどそれくらいの季節かなとは思ってた」


「リンカ、どんなに経ってもあたしを置いていなくならないでね」


「当たり前だよ、ミアが嫌だって言うまで傍にいる。その代わり、ミアも約束して」


「なにを?」


「わたしの前からいなくならないで。ミアはわたしにとって初めての友達なの」


「あはは、いなくならないよ。リンカが嫌だって言ってもいなくなってなんかやらない」



 うそつき。

 ミアのうそつき。


 いなくならないって、あのとき約束したのに。

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