第6話 転生者の能力
わたしはミアと今後のことを話した翌日、自警団の人たちと一緒に森へ来ていた。
ミアにはやっぱり反対されたけど、自分の魔法がこの世界のモンスターとやらにどれくらい通用するのか試しておきたいと思ったからだ。
しかし。
「嬢ちゃん、また水出してくれよ」
「えー、またですかあ」
「ほらほら早く。両手に一杯でいいからさ」
わたしは仕方なく、合わせた自分の手に一すくいの水を魔法で発現させる。
三十になるかならないかくらいの自警団の男性がそれを見て「ヒューッ」と口笛を吹きにやける。
「手から直接飲んでいい?」
「いいわけないでしょう。水袋に入れてあげます」
道中ではちょっとしたセクハラまで受ける始末だった。
まあ今のわたしは本人でも少し見惚れるほどの美少女だ。男だらけの自警団に着いてきて魔法でサポートしているだけでも潤いになっているのだろう。
「いやー、リンカさんが村に来てくれてからホント皆助かってますよね」
自警団最年少の二十歳くらいの青年がそう言ってくれた。
「薪割りも風の刃であっという間にやってくれるし、火おこしするのにマッチもいらないから節約になりますし」
そう。
わたしはあのルーグ村で唯一の魔法使いなのであっちこっちの家でちょっとした魔法を使うために呼び出される。
特に水の案件が多く、わたしが出す水は農作物を育てるのに最適らしい。飲んでもすごく美味しい。
「この世界って、たまに勇者が異世界から呼び出されるから”ブレイブランド”なんですけど、ひょっとしてリンカさんもそうだったりして」
そうなのか。
青年の言葉にわたしは少し考える。わたし以外にも転生者がいてわたしなんか比べ物にならないほど強い勇者でこの世界を又にかけて活躍しているのも知れない。
「おい、この臭い……」
ふと、自警団のリーダーのおじさんが足を止めて言う。
「フォレストウルフの小便の臭いだ。やつらがこのあたりにマーキングしてるかも知れねえ」
フォレストウルフ。初めて聞いたけどおそらく狼のモンスターだろう。
「群れでなきゃいいんだけどな。十匹以上で来られたらこの人数だとやべえ」
「引き返しますか?」
「バカ言え。こういうモンスターが村に来る前に駆除するのが自警団の仕事だ」
勇ましい自警団リーダーの声はものの十分ほど後には情けない怯え声に変わるのだった。
フォレストウルフとやらのマーキングを見つけてさらに進むと、すぐに木々の合間を縫って狼の群れが現れた。
いつの間にか後ろの森からも出てきており、わたしを含む総勢五人はすっかり狼に取り囲まれてしまう。
「あわ、わ、あわあわ……」
自警団最年少の青年が恐怖に後ずさる。
わたしも正直どうしていいかわからなかったが、不思議と恐怖は感じなかった。
たかが二十匹にも満たない狼の群れがなんだというのか。そんな根拠のない自信が湧いてくる。
「ひえーっ!」
自警団の一人が叫び声を上げるとそれが合図になったかのように狼たちが一斉に飛びかかってきた。
わたしの脳内にはこの場にいる人間全員を守るイメージがすでに浮かんでいた。
「壁よ!」
叫ぶと透き通ったドーム状の氷の壁が現れ、狼たちをはじき返す。
狼たちが驚いているのが伝わってくる。自警団の四人は怯えてかがみこんでしまっている。
その間にわたしは、目の前の敵たちが死ぬところを思い浮かべた。どうすれば一番手っ取り早いか……。
「砕けて刺し殺せ!」
氷で作った壁は防御の役目を終え、今度は攻撃に転じた。
唱えたとおりに氷は砕けて細かい破片と化すと、狼の群れにものすごい勢いで飛んでいく!
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