第四話

「うん。確かに。だから推測があってさ。この事件には二つの線があるんだ。それはね、一つ目に脅し。二つ目に復讐の機会を不特定多数に賜わろうとしたんだよ」


――なんでそんなことするの?

――どっちだよ


 『ジョイホッパー』こと坂上啓二が自身の生放送で渋谷銃雨事件の話をしていた。彼は慣れた手取りで話を進めていた。渋谷銃雨事件のあらましから推測に至るまで。最も大体は情報提供者からの話をそのまま公に話しているだけなのだが。


「で、これについてだけどさ。提供者のおばちゃん……まあAさんとしておこうか。Aさんはこれを脅しとみているらしいんだ。誰にって?恐らくは政府の関係者。理由は自分の力の誇示のためさ。容疑者A……ああこれだとAさんとかぶってややこしいから容疑者で……Yでいいか」


――そうして

――続きは?

――随分踏み込むね今回


「そう?普段は世間の流行りものとか料理とかだから割と新鮮というのかな?でもこの話の推測っての?凄く面白くて俺聞き入っちゃってさ~。休憩時間オーバーして怒られるくらいにはね」


――さぼりはだめだよ


「ハイソウデスネ。で、続き。容疑者Yの狙いはその力を見せつけることでとある政治家の闇を暴露しようとしていた。その闇って何かって?例えば違法な献金とか薬物とかやばい連中との繋がりって言ってたね」


――それとこれがどう繋がるの?


「例えばだけどね。俺が容疑者Yとするじゃん?そしたらそれでまず警察をこう脅すんだよ。もしお前が悪事を働く政治家達を調べないというなら渋谷に銃の雨を降らせるぞってな。しかし警察はそんなことできるわけないとこれを無視。そして事件は起こった……ってことよ!!」


――なるほど

――それなら合点はいくわな

――で、その政治家って誰?


「それがね……なんとその年に悪事がばれたのが三人もいたんですよ!!もちろん銃雨事件のあとでね」


 決めたドヤ顔にコメントの波は荒くなった。


――三人も出たのか

――それじゃあ脅迫説成り立たなくね

――三人しか出なかったってことなのかね


 コメント群の疑問に彼は返答する。


「Yはそうしたんだよ。真の復讐者相手がその中にいて復讐は成り立ったと。そして本当の復讐者が誰かがわからないようにしてね。汚職がばれることで対象の生活やら環境っていうの?それを壊したくてそうした。これが動機さ。本当に政治家への復讐が動機かって思うけど実際にその後、渋谷銃雨事件のような事件は日本どころか世界中で確認もないっていうからね。ちなみに海外で銃雨事件について尋ねると日本人がまた漫画かアニメの話してるって返されるのが定番らしいぞ?」


 話を終えて彼はまたボトルのお茶に手を伸ばす。

 そこに新なんぶからのコメントが届く。


――で、結局銃の雨を降らせた奴は何されてそんなことしたの?


「それな。銃をばらまくとか自分が殺されるケースも十二分にあり得るよな?でも犯人が銃を呼び出すだけじゃなくて消せるとしたら問題ないよな?警察は銃は全部処分したって言っててさ。一丁も残っていないんだと」


――ええ?

――警察なにしてんの

――ふつう残すんじゃない?一丁くらい


「なんでも危険物質があったとかどうとかで。それで全部ポイしたとか」


 うんうんと頷きながらジョイホッパーは賛同する。


「そういえば銃の雨ってまた降るのかなって提供者に聞いたんですよ。そしたらこう言ったんだ」


――そうねえ。復讐の動機でもあればそうすんじゃない?実はズタズタにしたはずがまだけろっとしていたりとかで


「皆はどう思う?」


 ジョイホッパーは困った顔をした。


――知らんがな


「ですよねー。これが本当なら特ダネだろうけど……仮説臭いんだよなあ。つか何で俺こんな話してんだろ……」


――慣れないことするから

――本物っぽいけど嘘かもしれんよ

――でも面白かったよ


「あはは。そういってくれると嬉しいよ」






「右島さん。それ……」


「ああ、坂上の例の放送だ。手がかりがないか探してるんだが……」


 スマートフォンの画面の中の坂上がやった生放送を見返す右島。本来なら動く車内で動画を見るというのは酔いの原因なのだが今の彼にはその気配は全くなかった。


 二人は今、丸神虎秋の結婚式の会場へと向かっていた。会場はホテルの近くに建てられた教会でほぼ全面貸し切りであると情報が入った。


「うーん……何度か確認しているがやはり真相しか言ってない。最初にこれを見た時、俺も親父も変だと首を曲げたんだよ。もしかしたら新たな犯罪予告かもしれないと思った。やはり途中で言ってた新しい復讐の為に十七年前に終わったはずの復讐の続きをやる気なんだろう」


 走る車の中で当時の資料を見ていた時、右島は『そういえば』と声を漏らす。


「事件があったあの日前後も結構ドタバタしてたなそういや」


「ばら撒かれた銃が原因ですか?」


「ああ。坂上が言っていたDVのあった夫婦。ブラック企業に邪教同然のカルト宗教でな。だがそれだけじゃない。資料には掲載してなかったが都内にいたチーマー集団や反社会組織でどうやら抗争らしきものがあったらしい」


「抗争らしきもの?」


「ああ。丸神が逮捕された後だったか?奇妙な話だがろくに争った形跡がないのに銃殺された死者が出たんだよ。……多分銃雨事件の元凶の仕業だ」


「なんでそれ表沙汰になってないんです?」


「丸神以外のパイプが繋がっていたやつらの仕業だろ。丸神は裏社会の連中とつるんでやっていたあくどい事の中には違法な臓器売買の元締めもしてたらしく仲介料とかで利益を得ていた。死体からはぎ取って焼やすとか溶かすとかすればばれないだろ?多分金を優先してそうしたんだろ。当時は気付かなかったが何かあって元凶は奴らを殺した。そしてその死体は丸神や裏社会関係者の懐を温めるために利用された」


「そんなことが……」


「ああ。今更ながら思い出したよ。これがちゃんと繋がってるかどうかは知らないが……瀧下に聞いてみる価値はある。犯人であればな。手がかりは現状これしかない。とにかく急げ!」


 車は高速道路に乗り、目的地の式場へと向かおうとしていた。


「頼むから間に合ってくれ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る