#憧れの人は店内でオ〇ニーをします

 阿呆みたいに路地裏に座り続けていた。

 ストーカー用のスマホを握りしめたまま、過ぎていく時間にただ焦る。


 店長からは長瀬のあが2階席で自習を始めているという情報が届く。

 逃げるなよと、言葉尻に脅しが含まれていた。


「くそ、どうせうまくいくとは限らないんだ!迷っていても仕方がない」


 俺が長瀬のあをナンパし、店長に紹介するのは意味が分からない。

 しかもそれで店長が無理矢理長瀬のあを襲って捕まれば、俺が共犯になってしまいかねない。


 そもそも俺が長瀬のあと付き合える可能性が、本当にゼロになってしまうじゃないか。


「……バカかよ。この期に及んで、付き合いたいだなんて」


 最低で笑えてくる。

 今から自分が何をしようとしているのか分かっているのだろうか。何をしてきたか忘れたとでもいうのだろうか。


『痴漢は大変だったな。あの男にスマホを返して貰ったか?』

『あの男って中田さんの事ですか?何で知っているんですか?』


 意を決してストーカー用スマホでメッセージを送ると、長瀬のあから返事が返ってきた。

 彼女と連絡を取れている事に一瞬喜んでしまい、心がぐちゃぐちゃになった。


『2つ目の命令だ。そこでオナニーしろ』


 単刀直入にメッセージを送る。

 自分でも意味が分からなかったが、1つ目の痴漢されろに近いものだと、こうなるのではないだろうか?


 ナンパができない以上、長瀬のあに問題行動を行わせる必要がある。

 そして問題行動を咎める名目で、店長が彼女をバックヤードに連れていく。そしてまあ……AVみたいなやり取りをしたいという事なのだろう。


 食い逃げしろとか誰かを殴れとか、犯罪行動は行わせられない。そんな事をしてしまえば、彼女は店長から本当に逃げられなくなる。

 ストーカーが彼女を辱めて楽しんでいる、そんな目的を誤認させる方法で。かつ長瀬のあにも逃げ道があって、逃げても俺に責任が生まれない方法で。


『今すぐあの男を店に呼べ。あ、イクまでオナニーを止めるな。もちろんあの男が店についたとしても』


 変態チックなメッセージを、追加で送った。

 これなら中田が来る前に事を済ませなければ、あいつに自慰を見られるぞ!という遊びに見えるだろう。


 実際は中田がこの店に来さえすれば、店長の止められる可能性があるからだ。

 もちろん俺にもリスクはあるが、ただ店長に従うよりは気分がいい。


 そうだ。俺はそう言う戦略でこのメッセージを送った。


 長瀬のあが中田を店に呼ぶメッセージを送るかと思うと胸が苦しい。

 奴がくることを願いながらオナニーをする行為を想像すると、涙が滲んでくる。


「は……はは………」


 漏れ出た声の感情を俺は知らない。


『また怖い目会いたい?』

『ごめんなさい、スマホ見てませんでした』『ちゃんと返信します』


 長瀬のあから返信が来なかったため、メッセージと痴漢時の画像を送る。

 すると彼女から即座にメッセージが返ってきた。


『いい子だねー』『あ!これ新しい写真』


 自分をストーカーだと思い込むと、思いの外すらすらと文面が出てきた。

 片桐から貰った直近の盗撮画像を送ると、またもや長瀬のあからメッセージが届かなくなった。


 しかしこの状態で逃げるというのは無いだろう。

 既に中田にメッセージを送って、自慰を始めたのかも知れない。


 状況が把握できないのは、苦いものがある。

 かといって、店に入って実際に確認する事も出来ない。


 押し潰される様な無音が膨らんでいく。

 今、長瀬のあは中田にメッセージを送り、沢山の客のいる中でオナニーを行い、店長にその体を狙われているのか。


 妄想していたら、鼻水が垂れてきた。慌てて袖で拭う。

 こんな暗くて寒い所に一人でいるから、体が冷えてしまったのだろうか。


「ん?」


 ストーかー用スマホではなく、自分のスマホに通知が届いた。

 確認すると、片桐からだ。


 嫌な予感がする。

 震える手でメッセージを開くと、懸念は当たってしまったらしい。


『ファストフード店で長瀬のあ観察してたんだけど、店内でオナニーしてるっぽい!コッソリしてるけど、吐息とか漏れてるし顔赤いし、マジでえっなんだけど!』

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