#憧れの人をハゲデブ親父に紹介します
少し大きなベッドタウンの駅前。ゴテゴテと飲食店や雑居ビルが立ち並んでいる。
俺はその内の1つである、バーガーショップでバイトをしていたことがあった。
仕事は別に問題なかったが、結構すぐに辞めてしまった。
同じく働いていた由美と知り合って少しいい感じになったのだが、店長に邪魔をされて辞めざるを得なくなったのだ。
俺がシフトに入っている時に店の機械が故障し、トラブルになった事があった。
店長はそれを俺のせいだとして、修理代を払えと言い出したのだ。
性キュされたのは、数十万だかの修理代。払える訳もない。
そもそも俺が壊した訳ではないし、バイトに修理代を請求するのもおかしな話だろう。
しかし中田の知り合いで、店長もやばい奴なのだ。
まともに相手をする訳にもいかず、俺は逃げるように店を辞めた。
二度と顔を合わせたくなかったのに、なぜ俺はここにいるのか?
店の入り口横の路地裏で、ハゲデブ店長に睨みつけられているのか?
中田から店長の所に行って、預かりものを貰って来いと言われたからだ。
「おめー、よくもまあ、顔出せたよな。で?弁償いつしてくれんの?」
「いえ……あれは俺のせいでは……」
「おめーのせいだよ!文句あるのかよ!」
「い……いえ……」
ハゲてデブの店長だが、まっとうな道を歩んでいないだろうこの人は、逆らえない威圧感がある。
路地裏の壁を殴りつけて大きな音を出し、人を委縮させようとしてくる。
「まあいい、中田に頼まれたものだ」
「……うす……ありがとうございます」
店長に紙袋を渡された。
中を確認すると……カメラ?
靴につけるカメラやボールペン型、部屋に取り付けるタイプなど、様々なカメラが入っている。
「狙ってる女がいるから用意してくれと言われたんだけどよ、必要なくなったからお前に渡せとさ」
「あ……そすか……」
長瀬のあをストーカーするのに使うつもりだったのだろう。
直接会ってスマホを返す事になったから、必要なくなった訳だ。
「おら、20万円出せよ」
「は?」
「は?じゃねーよ!それを用意した代金だよ!中田がいらねーんなら、おめーが払うのが道理だろうがよ!」
無茶苦茶すぎる!
「修理代と合わせて、100万円な。目途はあるんだろうな?」
「そ……そんな金ありませんよ!」
「ああ?金は無いのに商品は用意しろって、テメーは詐欺師か?」
「お、おれは頼んでませんよ!返します!」
「んな道理が通じる訳ねーだろーがよ!」
「っ!!?」
店長に髪を掴まれ、顔を近づけられる。
漂う口臭と大衆に、顔を顰めてしまう。
「金用意できねーっつーんなら……そうだな?親に泣きつくか?それとも学生でも金借りれるトコ、紹介しようか?あーん?」
「いえ……それは……」
俺の親はいないも同然だ。
元々シングルマザーで父親はおらず、母親は家に帰ってこない。
たまに生活費を振り込んでくれるが、不定期だし、家賃を払えるかどうかというレベル。俺はバイトや中田の手伝いで、生活費を稼いでいた。
親の居所なんて、俺が知りたいぐらい。100万なんて大金ある筈がない。
かといってこいつの紹介するマトモでない金貸しの世話になってしまったら、きっと人生が終わってしまうだろう。
「どうなんだよ!!てめーは喋れねーのかよ!」
「いえ……その……」
「あ~?なら女子高生紹介しろよ?」
「え?」
「おめー、男子高校生ならなんか伝手があるだろ?由美に手を出そうとしたら、辞められてな。今のバイトが女子大生以上のばばあしかいねーんだよ。ムラムラしてもう我慢できねーんだ」
自分がじじいの癖に、何を言っているんだこいつは?気色委が悪い。
「紹介するのかよ!」
「し、します!」
更に髪をねじ上げられて、反射的に答えてしまった。
100万円用意するよりは、現実的かとは思う。というより、店長の狙いは元々こっちだったのだろう。
「おーし、分かった。今日な」
「は?い、いや!俺紹介できる知り合いなんていませんよ!」
「あ?なら適当にナンパしてこいや。あれがいいや、あれ。黒髪の清楚ビッチっぽい奴」
「あれ?」
店長に髪を掴まれたまま、首をグイッと曲げられる。
向かされた視線の先には横断歩道があり、信号待ちする人々がいた。
その中に確かに黒髪で、メチャクチャかわいい子が居た。
「長瀬……のあ?」
それは長瀬のあだった。
俺の頭がおかしくなって、幻覚が見えたのかとも思った。ただ由美の知合いだったら、由美と生活圏が被っていてもおかしくはないだろう。
「あいつ知ってるのか?なら話がはえーな」
「え?あ……ちが…!」
「最近毎日うちの店で自習しててよ。目を付けてたんだ。店の暖房強めにすると、服のボタンとか緩めててよ~。えーろい胸してるんだぜ。脚も綺麗だし」
は?このクソ店長に長瀬のあを紹介する?
想像しただけで頭がクラクラした。
「おら!行ってこい!」
「いつっ!」
店長は下卑た笑いを受かべ、俺の髪を乱暴に離した。
そのまま俺に背を向け、店の裏口へと歩いていくのだった。
「あいつ1、2時間位自習していくから、その間に何とかしろよ。できなきゃ100万円な」
「…………うす」
人間とは不思議なものだ。
何故か俺の頭はどうすれば長瀬のあを差し出して、自分が助かるのかなんて事を考え始めているらしかった。
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