#憧れの人はエロ自撮りを送らされていました
「なんだ、これ……」
家に帰ってストーカー用とかいうスマホの中身を確認した。
それは愕然とする内容だった。
スマホにはラインと基礎的なアプリしか入っておらず、メッセージのやり取り専用のサブ機という感じだった。
たぶん誰かからカツアゲしたスマホを、初期化して使っているのだろう。
ラインを開くと、トークも1つだけしか存在していない。
そのトークが長瀬のあとたろうというものだった。たろうというのは、このストーカー用スマホのアカウントで偽名だろう。
長瀬のあの友達である由美と中田が知り合いらしいので、そこからどうにか繋がったのだろう。
たろうが2人の昔の知り合いかも知れないとか、誤魔化したのだと思う。
由美は積極的に2人を繋げることはしていないようだが、邪魔はしないとのスタンスっぽい。
このたろうというアカウントを使って、長瀬のあにストーカーのようなメッセージが多数送られていた。
初めは会いたいだとか好きだとか、相手がうざいと思いそうな内容が送られている。
長瀬のあもそれに対しては、無視したり適当に流したりしている様子だった。
そこからだんだん「今学校終わったんだね」とか「駅についたかな?」という、気味悪さを感じる内容にエスカレートしている。
そしてとうとう、長瀬のあの脚や家を盗撮した写真を送り、長瀬のあはストーカーを無視できなくなってしまったようだ。
自分の姿や家が特定されているというのは、女子高生にとってはこの上ない恐怖なのだろう。
怯える長瀬のあに付け込んで、ストーカーアカウントは彼女にエロ自撮りを要求していた。
長瀬のあは最初は拒否していたものの、無言で家の写真を送りつけられて屈するしかなくなったようだった。
自分でスカートをたくし上げてパンツを見せている画像や、服をはだけてブラを見せる画像。様々な下着に着替えさせられているものや、中田が好きそうなポーズを取らされているものまで。実に大量の画像を送らされていた。
裸の画像が無いようだったが、それは長瀬のあが送りたくないと懇願したからっぽかった。
ストーカーアカウントが「処〇なら送らなくても許してやる」というと、彼女は自分が処〇なのだと告白している。
もう完全に操作されている状態だ。
そしてストーカーアカウントは、裸の写真を免除する代わりに、今後3つの命令を聞けと伝えている。
そんなメチャクチャな要求を、普通は飲まないだろう。
しかし住所を特定された上に、エッチな自撮りを沢山送ってしまった長瀬のあは、了承するしかなかったと見える。
この命令の1つ目が、痴漢に抵抗せずに従えというものだったらしい。
だから助けを呼ぶ事も出来ず、あんなにやられたい放題にされたのだろう。
もちろんこんな事になっているのは、俺がわが身かわいさに中田に盗撮画像を渡していたからだ。
そうでなければ長瀬のあはこれほど恐怖を感じ、冷静さを失った判断をする事も無かったに違いない。
中田は長瀬のあにストーカーの恐怖を感じさせ、自分がそこから救うシナリオを描いていたのだろう。
そして長瀬のあを自分に惚れさせて、円満に付き合いたかったのだ。
ただヤりたいのでなく、ちゃんと自分を好きと思わせたい辺りは、中田のいじらしさを感じる。
しかし手段は最低に過ぎる。
本来は3つの命令を使って長瀬のあを追い込み、その窮地に中田が登場するつもりだったのだろう。
しかし手下4人が暴走して、思った以上に長瀬のあを追い詰めてしまった。そして俺がそれを助けた訳だ。
当事者の俺が一番分かっている。
長瀬のあは俺に……いや自分を助けてくれた、フードとマスクで顔を隠したヒーローに心酔している。
たぶんそいつが付き合ってくれと言ったら、OKを出すんじゃないかと思う。
「……本当に付き合ってしまうのか?長瀬のあは分かってくれるか?」
中田がその時の俺の服を着て、長瀬のあにスマホを返しに行くらしい。
中田の背格好は、俺に結構似ている。あんな混乱している状態では、長瀬のあは俺のことをよく覚えていないだろう。
本当にあの時助けた人物を中田だと勘違いし、付き合ってしまうかもしれない。
このストーカースマホを長瀬のあに見せれば、阻止することができるだろうか?
「ダメだ……俺は自分が大事なクズ野郎だ……きっと憧れの人が不幸になるより………」
そんな事をすれば、中田は俺を絶対に許さないだろう。
自分の彼女でもない長瀬のあを助けるために、一歩を踏み出す勇気がない。
俺はただただ、長瀬のあのエロ自撮りを自分のスマホに送り続けるしかなかった。
死にたくなるほど惨めだったけど、他にどうしようもないじゃないか。
全ての夢が叶わなくて、俺はこんな所にいるんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます