#憧れの人を抱きました
「お、お前ら警察に電話したからな!今繋がってる!ぎゃ、逆探知でこの場所もすぐ分かる!逃げられないからな!」
中田の手下が近寄ってきた瞬間、スマホを取り出して画面を何度もタップして見せた。
適当に操作したので警察に連絡は出来ていないが、手下たちは動揺しているらしい。
「ど。どうする?」
「どうするも……マズいだろ…」
「とにかく中田くんに相談しねーと。金にならない事で警察はめんどくせえ」
男達はぐちゃぐちゃと話し合った後、長瀬のあの左右の男が自身のベルトを緩めだした。
おかしくなったのかとビビったが、どうやら長瀬のあの腕の拘束を解くためだったらしい。
「顔覚えたからな、テメー!次あったら殺してやる!」
男達はそんな捨て台詞を残し、トイレから走って逃げていった。
もちろん長瀬のあは置き去りにして。
「え……」
長瀬のあは何が起きたのか理解が追い付かず、ポカーンとしていた。
しかしやがて自分が助かったらしいことを、理解したのだろう。
「ありがとう……ございます……」
「え……ちょ……!?」
突然長瀬のあが走ってきて、腕の中に飛び込んできた。
柔らかい感触が非常によろしくて、どうしていいか分からなくなってしまう。
長瀬のあは服を脱がされて、ほぼ裸みたいな状態だ。
そんな剥き出しで抱き着かれたら、健全な男子高校生としては我慢できる訳が無かった。
「こわかった……もうダメかと思って……」
「…………」
長瀬のあの小さな肩は震え、抱きしめてくる腕は苦しいほどに力が入っている。
涙で息がうまくできないのか、嗚咽は途切れ途切れだった。
「もう大丈夫だから」
「はい……」
小さな体を抱きしめ返し、安心させるように言う。
長瀬のあはそれで緊張の糸が切れたのか、声も出さずにずっと泣き続けていた。
そんな姿を見せられたらエッチな気持ちなど失せてしまう……訳もない。
すべすべな白い肌の感触を楽しみたいな~とか、胸に当たっているの乳首だよな?とか、ブラのホック外したら驚くかな?煩悩と戦い続けた。
長瀬のあが泣き止んだのは、かなり時間が経ってからだった。
その後は俺が駅前で安い服を買ってきて、彼女にプレゼントした。
長瀬のあはお金を返すと言っていたが、受け取れるはずもない。
そもそも長瀬のあの鞄や財布は、電車の中に置き去りになってしまっている様だった。心当たりがないか、後で片桐に確認しておこう。
最寄り駅まで送ってあげたらよかったのだろうけど、そんな気は回らなかった。
長い時間裸の憧れの子と抱き合っていた事実が今更恥ずかしくなったのと、そもそも我慢し続けて限界だった。
このまま一緒に居続けるとつい口説いてしまいそうで、もしものお金や切符などを渡して、八条河原駅改札で別れることになった。
ありがとうとお礼を言う疲れた笑顔はとてもかわいくて、脳が焼かれる気がした。
だって彼女が中田の手下に襲われたのは、俺が中田に盗撮写真を送ってしまったからなのだから。
その弱みに付け込んで長時間抱きしめてしまったのだ。深い罪悪感が、全身の神経を撫でていくようだった。
俺は気持ち悪いぐらいニヤニヤしていたと思う。
小便のにおいに混じった、彼女の汗と体温を思い出し、走り出したいような気持ちになった。
ふとスマホを確認すると、中田からのブチ切れメッセージが届いていた。
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