#憧れの人の家まで特定されたらしい

 あれから毎日、片桐は長瀬のあを盗撮し続けているようだ。

 パンツが見えそうなギリギリの脚の写真に、正面から隠し撮りした写真。電車の中で気を抜いた瞬間や駅から自宅に向かう写真。


 挙句の果てには、長瀬のあの自宅の写真まで送られてきた。


 そう。片桐は顔写真を渡した俺に、深い感謝の念があるらしい。

 そのため盗撮写真を撮影しては、おすそ分けとして俺に送ってきているのだ。


 俺はそれ半ば無気力にスマホに保存し、中田に貢物の様に転送し続けている。


「くそ……なんだ、この最低な気分は」


 学校からの帰り道、アスファルトにスマホを叩き付けたくなる。

 画面には長瀬のあが、部屋で服を脱いで下着姿になっている画像が映し出されている。


 長瀬のあの家を特定した片桐が、カーテンの隙間から着替えを盗撮したものだ。

 なんでも長瀬のあの両親はともに単身赴任中で、彼女は家に一人暮らし中。なのでリビングで着替えたり、薄着で歩き回っていることが多いのだとか。


「なんでそんなこと知ってるんだ……」


 俺の方が長瀬のあを先に知っていたのに、今では片桐に教えて貰う立場だ。


 今の所、片桐からは下着までの画像しか送られてきていない。


 けれど実は片桐はもっと凄い場面を、もっと深く見て、撮影しているかもしれなかった。

 …………家の場所や家族構成まで把握しているんだ。もうすでに、一線を越えてしまっていてもおかしくはない。いや、そうに違いない。


「ああ!落ち着け」


 首を振って、嫌な想像を頭から追い出す。

 気を紛らわせるためなのか、知らない内に片桐からのメッセージが来ていないか確認していた。


 いつもこの時間帯になると、片桐は盗撮画像を送ってくる。

 長瀬のあが学校の最寄り駅に現れ、電車に乗る時間帯なのだとか。


 俺も行けば、長瀬のあに会えるのだろうか?

 しかし駅の場所もよく分からないし、何より片桐の成果を奪うような気持ちになって一歩踏み出せないでいた。


「きた!今日は遅めだったな」


 片桐からのメッセージが届き、長瀬のあという単語が含まれているのが目に入る。

 自分が盗撮画像を心待ちにしていたらしいことに驚きながら、メッセージを確認しなおした。


「え?」


 しかしメッセージには盗撮画像は添付されていない。


『長瀬さん痴漢されてるっぽいんだけど、なんか知ってる?』


 代わりにくらくらする一言が、トーク画面の中に踊っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る