名付け


「イト。本当に申し訳ない。俺は今まで戦争でイトの兄や姉をかなり殺して来た。許してくれなんて虫の良い事は言わない。殺さなければ俺が殺されていた。だから殺した。それでも謝罪だけはさせてくれ」

 頭を下げる。


「あ、そういうの全然気にしてないよ。だって私、兄弟姉妹全員嫌いだったもん。むしろ殺してくれてありがとうってぐらいだよ。ありがとう」

 あ、そうだったんだ。確かに仲の悪い兄弟姉妹ってのもあるか、それは良かった良かった。それならもしまた戦争になっても気兼ねなく魔王の子供を殺せるな。


「そうか、それは良かったよ」


「そんなことよりも、私の兄弟姉妹を殺せるって、それにさっきの言葉、そして、その身に宿る父上よりも強い魔力、貴方、世界最強である殺戮魔帝なのね。ああ。私が殺戮魔帝と付き合えるなんて、夢みたい」

 俺に寄りかかってくるイト。

 ヤバい。めちゃくちゃに可愛い。もう可愛すぎてヤバい。

 俺、殺戮魔帝で良かったわ。今まで必死に努力してきて世界最強になって良かった。

 

「いや。夢みたいはこっちの台詞だよ。俺の方こそイトのような女神のように可愛く美しい女性と付き合えるなんて夢みたいだよ」

 

「フフフ。じゃあ私達同じ気持ちだね。嬉しいわ」


「ああ。そうだな。本当に嬉しいよ」

 寄りかかって来たイトを俺は抱きしめる。

 柔らかくていい匂いがして、頭がクラクラしてくる。

 幸せ過ぎる。


「だから、何をやってるんですか。それ以上、私の前でイチャイチャするな。不愉快ですわ」


「そういえば、貴方の名前はなんていうの、殺戮魔帝って呼ぶのはなんかおかしい気がするの。私は貴方を名前で呼びたいわ」

 イト可愛いぃぃぃぃぃ。可愛い過ぎだろ。

 でも、名前か。それがないんだよな、俺孤児だし。いや正確に言えば多分名前はあったんだろうけど、長い事戦場を渡り歩いてる間に忘れてしまったし、どう答えようか。


 ・・・・・・・・


 あ。そうだ良い事を思いついた。


「実は俺、名前がないんだ。だからイトが俺に名前を付けてくれないか」


「私が名前を・・・分かったわ。じゃあ貴方はリクト。これからリクトと名乗りなさい」


「リクト・・・良い名前だな。よし、分かった。俺はこれからリクトと名乗るよ。良い名前をありがとう、イト」


「どういたしまして。リクト」


「だから。何をしてるよ。それにお前みたいなガキがあの七魔帝の一人であらせられる殺戮魔帝だと。嘘をつくにしてももっとましな嘘をつきなさいよ、しかもその制服平民だな。お前なんて即刻退学だ。退学。今すぐに失せろ」

 

「ピーチくぱーちく、うるせぇんだよ、クソババア。お前何様のつもりだ。俺は今イトと会話をしてるんだ。黙れ、次うるさくしたら殺すぞ」

 明確な死の魔力が現在殺戮魔帝改め、リクトのいる部屋である職員室に広がる。

 その死の魔力は下手な戦場よりも濃い死を感じさせる程の強大な圧を持ち、職員室内にいる3名を除き全員がその場で泡を吹いて気絶した。


「さて、これで静かになったな」


「うん。そうだね。ありがとうリクト、さっきからあの人ずっと私に嫌味を言ってきてずっと困ってたんだよ」


「そうか、俺の可愛いイトに高圧的な態度をとってたのか、じゃあ殺そうか?」

 この世界はイトを中心として回っているといっても過言ではない、いや、実際にイトを中心として回っている。

 可愛いは正義って奴だ。

 そんなイトに不快な思いをさせる存在、それ即ち、この世界の敵である。

 それは殺した方が良いに決まっている。


「う~ん。いや、わざわざリクトの手を血に染めるようなことはしなくてもいいよ。それに、この人が私に嫌味を言ってくれたおかげで、リクトに会えたんだから。むしろ感謝してるくらいだよ」


「そうか、イトがそういうのであれば、俺からは何も言わないよ」


「ありがとう。リクト、そのだ、大好きだよ」

 ヤバい可愛いが可愛いいしてるよ。

 大好きだよって言葉にここまでの破壊力があるなんて、俺知らなかったわ。

 

「もちろん、俺も大好きだよ」

 俺のその言葉を聞いて目を輝かせて更に強く抱き着いてくるイト。

 もう、可愛いがもう可愛いで可愛いが可愛いってなってるわ。

 語彙力が馬鹿になる。


「あ、それで気になったんだけど。イトはどうしてこんな所にいるんだ?」


「そ、それは、人質として入れられたんだ」


「人質?誰がそんな真似を今すぐに全てを殺戮してこようか?」


「いや。いいよ。そんなことよりも私を大切にしてよ」


「イト・・・、そうだね、そうするよ」


 かくして、殺戮魔帝もといリクトと魔王の娘もといイトは二人だけの世界にトリップするのだった。

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殺戮魔帝は魔王の娘に恋をする ダークネスソルト @yamzio

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