かくして戦争は終わりを告げる


 人魔戦争・・・それは、300年以上続く、人間と魔族の戦争であり、終わりの見えない、ひたすらに不毛で愚かな戦争であった。

 この戦争のきっかけなんてのはもはや誰も分かってはいない。

 魔族が人間の村を滅ぼしたのか、はたまた人間が魔族の村を滅ぼしたのか、それとも悪意のある第三者が引き起こしたのか、ただ一つだけ言えることがあるとすれば、きっかけなんてものは存在しなくても、魔族と人間と言う根本的に生き方も考え方もその強さを寿命も何もかもが違う生物がいたんだ。

 敵対して戦争に発展するのは当たり前というものだという話であった。

 

 そんな人魔戦争はどこまでも非道で不毛で醜く愚かで残虐であった。

 戦争は人を狂わすというが、まさしくその通りであった。


 最初は国の為に魔族を殺して国民の皆を守るんだという強い意志を持って戦争に出た優しい青年は戦争によって魔族から殺されるか、戦争の狂気に呑まれて無抵抗の女子供の魔族を笑いながら殺して凌辱する悪鬼に堕ちるかの二択であった。

 魔族はそもそも全員が戦闘狂のようなものであり、最初から人間を犯し殺し奪うことを目標としていた。


 こんな状態の人間と魔族の戦争。


 どうなるか、なんていうのはもはや論じるまでもなかった。


 血を血で洗い、積み重なった屍が何十メートルもある砦よりも高くなり、弱者も強者も等しく狂い果て、戦争という大義名分の元、魔族も人間も村や町に襲い掛かり、無抵抗の民を虐殺し、凌辱し、強奪をする。

 暗殺に毒に罠に裏切り、様々な正義の道からは外れるような行為が横行して、時には同じ仲間同士で疑い殺し合いが始まっていた。

 誰も彼も正気ではなかったし、誰も彼もが自分が正気ではないことを自覚してしまっていた。

 魔族も人間の等しく狂い果ててしまっていた。

 そんな、文字通りの地獄のような戦争の果てに人間側にとある七人の英雄が生まれた。


 その七人の英雄はひたすらに強かった。

 

 狂い狂ってしまった、人間陣営にとってみればその7人の英雄は大きな希望の光となり、この地獄の戦争を終わらせてくれるという期待が込められた。

 狂い果てた人間たちはその7人の英雄をもはや信仰というレベルで期待を寄せ、希望を持ち、7人の英雄はそれに答える様に戦った。

 ひたすらに戦った。魔族を殺して殺して殺し回り、戦って戦って戦いつくした。


 この7人の英雄の手によって人間側が優勢へとなる。


 ただ、もちろん、魔族も負けてはいなかった。


 人間側の七人の英雄を殺す為に、対抗するかのように四天王という制度を生み出した。

 魔族側の四天王はひたすらに強く、魔族側の希望となった。

 

 そして七人の英雄のうちの3人の英雄が魔族の四天王によって殺されてしまった。


 これにより、また魔族と人間の戦争は拮抗する、否、魔族側が優勢となった。

 人間側は深く絶望をした。

 もう、これで終わりだと思った。


 そんな時に一気に頭角を現した、とある英雄が否、とある殺戮者がいた。


 彼には名前がなかった。

 孤児として、人間の軍の指揮官によって拾わたからであった。

 そのまま誰からも名前を付けられることはなく、彼はただ一人で魔族を殺戮し続けた。

 殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくった。


 そんな彼の力に対して畏怖と敬意を込めて、皆は彼をこう呼ぶようになった。


 【殺戮魔帝】と。


 かくして【殺戮魔帝】の手によって魔族たちは殺戮され、起死回生を狙って魔族軍が10万の軍隊で人間の国を攻め落とそうとしたが、それもまた、殺戮魔帝の手によって全員等しく無慈悲に殺戮されてしまいました。


 あまりの大敗に、魔族もといそれを統べる魔王も白旗を上げて、人間側に全面降伏。

 賠償金として人間の国との周辺の領土ほぼ全域と莫大な金銀財宝に貴重な魔道具の数々、果ては人質として魔王は自分の娘まで差し出しました。

 一部まだ魔族と戦争をして搾り取ろうと考える愚かな戦争を知らぬ貴族や王族もいましたが、戦争を知る現場の軍人に貴族や王族は、自分たちの勝利という最も良い形で戦争が終わるのならば、これほど良いことはないと条件を快諾。


 かくして300年以上続き、永遠に続くと思われた人魔戦争は終わりを告げました。

 

 めでたしめでたし


 かくして、この物語はそんな人魔戦争の大英雄も大英雄、世界最強にして世界最凶である【殺戮魔帝】が魔王の娘に恋をして始まるラブストーリー(笑)です。

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