第2話

土曜日の朝8時45分。

僕は七瀬さんとの集合場所である駅前に来ていた。少し早く着いたのもあって、彼女の姿は見えなかった。


「わっ、おはよ咲人くん。待った?」

「うわっ」


駅前で5分ほど待っていると、後ろから七瀬さんが驚かせるように話しかけてきた。


「うわはは、咲人くん驚きすぎ」


七瀬さんは僕の反応が面白かったのか、声を上げて笑っていた。

七瀬さんは本当によく笑う、たまに病気ってことを疑うくらいだ。


「それじゃ、電車来るから行こっか。」


七瀬さんはひとしきり笑った後、駅の方向に歩いていった。置いてかれないように僕も、その後ろに着いていく。


「そういば、今日はどこに行くの?僕まだ教えてもらってないんだけど。」


ほぼ強制的に連れてこられて、あの日は連絡先も交換せずに、集合場所と時間言われて終わったので、僕はこれからどこに行って何をするのかは全く知らない。


「えっとそれはねー、秘密。着いてからのお楽しみ!」


そう言われたので、僕はこれからのことを少し楽しみに待つことにした。


「ここで降りるよ、咲人くん。」


少し電車にゆられて、七瀬さんの言うままに着いていく。そして着いた先は。


「遊園地?」

「そう!私の小さい頃に一回来たことがあって、もう一回来てみたかったの!今日のためにちゃんと予定まで立ててきたんだから!」


七瀬さんは少し自慢げに予定を見せてきた。


「この予定で回るの?絶対無理だと思うんだけど。」

「そんなの分かんないじゃん。回れなかったとしても楽しめればいいんだよ。」


七瀬さんはそう言ってはしゃいでいた。


「それじゃ、早く行こ!」


子どものようにはしゃいで入り口に向かう七瀬さんを見て、前に来た時もこんなふうにはしゃいで両親を少し困らせていたのだろうか。そんなことを考えながら僕も遊園地の中に入った。


「えっと、まず最初はジェットコースターね。咲人くんって絶叫系は無理な人?まあ、無理でも一緒に乗ってもらうけどね。」

「それ、僕に聞いた意味ある?」

「んー、ないね。そんなのいいから早く並ぼうよ。」


まだ開園したばかりなのに、ジェットコースターにはそこそこの人が並んでいた。


「ねえ、咲人くんって普段の休は何して過ごしてるの?咲人くんことだから一日中家でゲームとか本読んでそう。」


ジェットコースターに並んで順番を待っていると七瀬さんがそんなことを聞いてきた。


「別にずっと家にいるわけじゃないよ。ちゃんと外にも出てるし。」

「どうせペットの散歩とかでしょ。」

「なんで分かったの。」

「やっぱり。咲人くんそれくらいでしか外に出なさそうだもん。友達と遊びに行ったりしないでしょ。」

「寂しいことに休日に遊びに行くほど仲がいい友達がいないんだよ。」

「あー、咲人くん友達いなさそうだもんね。そうだ、私が最初の友達になってあげようか。」

「失礼だな。僕にだって友達の1人くらいいるよ。それに七瀬さんが友達になると毎日が忙しくなりそうだから遠慮しとくよ。」

「断られちゃったかー、なら咲人くんの気が向いたらその時はよろしくね。」


七瀬さんはそっかーと言いながら笑っていた。

七瀬さんといると、毎日外に連れ出されそうだ。外に出ることは嫌いではないけど、家でゆっくりしている方が僕は好きだ。


「あ、私達の順番来たよ!はやく乗ろ!」


話して待っている間に順番が来た。七瀬さんははやくはやくっと言わんばかりに僕の手を引っ張った。

ジェットコースターに乗ってアナウンスにしたがって安全バーを下ろす。


「うわー、ドキドキするね咲人くん。」

「そうだね。」


実は絶叫系苦手な僕は、今からジェットコースターが動くと思って七瀬さんと違った意味でドキドキしていた。

ジェットコースターは結局七瀬さんの要望で2回も乗った。絶叫系が苦手な僕は、1回はまだしも、2回も乗ったの疲れでベンチで少し休憩していた。その間に七瀬さんは飲み物を買いに行っていた。

本当に最悪だ。もう二度とジェットコースターには乗らない、僕はそう心に誓った。


「はい、これ飲んで。大丈夫?」


七瀬さんは買ってきた飲み物を僕に渡して、隣に座った。


「もう二度と乗りたくないよ。」


七瀬さんは僕の返しに、うわははって笑った。


「ごめんごめん、面白くてつい。まさかそんな返しがくるとは思ってなかったから。」

「いいでしょ、僕にだって苦手な物くらいあるんだから。」

「そうだね。そうだ、休憩するならここじゃなくて中で休まない?」


七瀬さんがそう言うので、僕達は遊園地の中にあるレストランに行くことにした。


「ねえ咲人くん、私あれ食べたい!」

「あれはカップル限定でしょ、だから僕達は頼めないでしょ。」

「ねえいいでしょ。今だけカップルってことで、フリだけでいいからお願い。」

「わかったよ、フリだけだからね。」

「やった!ありがとう!」


しつこくお願いして来た七瀬さんの圧に負け、僕は彼氏のフリをしてカップル限定のパフェを頼むことになった。


「わあ、美味しそう。せっかくだし咲人くんも一緒に食べようよ。」

「僕はいいよ。ほら、今お腹いっぱいだし。」

「えー、食べようよー。美味しいのに、、」


七瀬さんはぶつぶつと言いながらも美味しそうに食べていた。


「そうだ!ならこれは死ぬまでにやりたい事の1つです。だから咲人くんも食べてくださーい。」

「え、それはずるくない?ほんとに僕はいらないから。」

「ずるくないでーす。」


死ぬまでにやりたい事ノートのことをだされたら食べるしかない。逆らうとどんな噂をばらまはれるか分からない。


「どう、美味しい?」

「うん、美味しいよ。」


七瀬さんはでしょっと言って、ご機嫌そうにパフェを食べていた。

レストランを出ると、僕達は七瀬さんの立てた予定の通りにメリーゴーランドやお化け屋敷、観覧車に乗った。結局は予定の全部は回ることは出来ずに、夕日の出た頃に遊園地を出て帰ることにした。


「今日はありがとう。おかげで楽しかったよ、また今度もよろしくね。」

「どういたしまして。それじゃ、僕は帰るからまた学校で。」

「あっ、待って待って。」


帰ろうとしたら、七瀬さんが僕の手をつかんで引きとめてきた。これからまだどこかに行くのだろうか、早く家に帰りたいんだけどな。


「連絡先交換しよ。ほら、これからも付き合ってもらうんだから交換しといた方がいいでしょ。」

「それもそうだね。」


僕はそう言って携帯の画面を見せた。


「うん、ありがとう。これからもよろしくね。それじゃ、また学校で会おうね。」


僕は連絡先を交換して、これ以上は話すも何もないので家に帰った。

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