第4話 スポットライト
突然、岳の目の前の視野がふっと広くなった。
暗闇の空間に、巨大なスクリーンのような物が現れた。
「な、なんだ?」
岳はとても混乱していた。目の前の少年と突然現れたスクリーン。全く状況が掴めない。
スクリーンには焦点の合わないぼやけた映像が映っている。
「夏くん、夏くん、わかる?」
コンサートホールにエコーが響くように、スクリーンをのぞき込む白衣の男の声がした。
「あれ…俺…どうなってるんだ…。オッサン、誰なの?」
岳の目の前の少年がそう言うと、
スクリーンから少年の声で同じ言葉が再生された。
「君、名前は?」
岳は少年に聞いた。
すると、スクリーンから少年の声で
「君、名前は?」
と聞こえてきた。
「俺は柏木夏。オッサン誰だよ。なんで俺の頭の中にオッサン?」
「頭の中??」
「俺が目を閉じると変なオッサンが見える。」
「はぁ?」
不思議な事に夏という少年と岳が会話をすると、スクリーンから夏の声で同じ会話が再生されていた。
─────俺たちの会話を…外の世界の少年が話しているのか?
岳は眉をしかめながら思った。
スクリーンでは医師と看護師、涙を流す女性が、おかしな言動を繰り返す夏を見て困惑した表情でこちらを見ている。
「まだ目覚めたばかりです。当分は錯乱状態が続くでしょう。ただ、目が覚めた事はとてもいい兆候です。午後からまた頭の検査を追加して様子を見ていきましょう。」
医師はそう言って部屋を出て行った。
「夏!!本当に良かった…。お母さん、ずっと夏が帰ってくるって信じてた。ゆっくり、ゆっくりでいいから、少しずつ良くなろう!!」
母親はそう言うと、父親に電話するために部屋を出た。
「…俺の頭の中に突然現れて何なの、あんた。」
夏はイラついた顔で言った。
「俺も分からないんだ…。事故に遭って…気が付いたらここにいた。俺…死んだのか?」
「死んで何で俺の頭の中に来るわけ?意味わかんねぇよ。それにあんたが頭の中で話すと、何故か俺の口が動いてあんたの言葉を言っちまう。」
─────俺は死んで、この少年の頭の中に転生した…と言う事なのか?
岳はうーんと唸った。
「とにかく頭の中が気持ち悪いから出てってくれよっっ!!」
夏は怒鳴りながら、岳をスポットライトのエリアから押し出した。
「ま、待てよっ!!」
岳がよろけて夏のスポットライトの外に出た。もう岳にはスポットライトは当たらなかった。
「俺だってここから出たい。でもどうしたら出られのか分からないんだ。」
暗闇の中岳が言うと、今の言葉は外の世界の夏が復唱しなかった。
─────なるほど。このスポットライトの中で話した事だけが、外の世界の夏の言葉になるんだな。という事は…
今度は岳がスポットライトの中の夏に突進し、夏をスポットライトの外へ押し出した。
「いってぇなっ!!何すんだよ!!」
夏は顔を真っ赤にして怒ったが、今の言葉は外の世界の夏に届かなかった。
岳の仮説が確信に変わった。
スポットライトの中の岳は暗闇の夏に向かって言った。
「取り引きをしよう。」
岳の言葉は外の世界の夏の言葉となって、
空間にこだました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます