第3話 柏木夏

柏木夏は一ヶ月ほど前に事故に遭い、

今も意識のない状態が続いている。



高校の友人と遊びに行き、別れた直後の事故であった。自転車を運転中、車に衝突され頭を強く打った。




頭の血腫を取り除く手術は成功したが

意識が戻らなかった。

医師からは

「このまま意識が戻らない可能性もある」

と家族へ酷な説明もされていた。




夏の両親はそれでも回復を信じ、毎日夏の好きな曲を流し、声をかけ、息子の身体をさすった。



「大丈夫。夏は必ず私たちの元へ帰ってくる。」



夏の母、幸(さち)は毎日この言葉を呪文のように唱えながら、夏の側で過ごした。




ある朝、

いつものように幸が夏の好きな曲を流そうとした瞬間だった。




「いってぇぇぇなっっっ‼︎」




幸は飛び跳ねるように驚いた。

一ヶ月間、全く反応の無かった息子が突然話したのだ。



「夏、夏っ!わかるっ!?お母さんだよ‼︎」



幸はボロボロと涙を溢しながら、夏の頬を撫で夏に話しかけた。

夏はぼんやりとした表情ではあるが、うっすら目を開けた。




ナースコールを受けて、

看護師と医師が駆けつけた。




「夏くん、夏くん、わかる?」




医師が夏の眼球にライトを当てながら声をかけた。



「オッサン、だれ?」




夏は眩しそうな顔で答えた。






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