第三話 別離

 終業後に研究室へやってきたルーアとヴェーチルは、 ジェインの姿を見るなり驚いていた。

 地下研究室に集まった五人のうち、たった一人生者であるジェインがこの場所に馴染んでいるのだ。


 カーター・マルサスの訃報を聞いて、ルーアが真っ先に反応を示す。

「なんで、マルサス家の人が死ぬの……?」

 その質問の矛先を向けられたアルジントは、聞いたばかりの話をそのまま伝える。

「残念ながら、理由は分からないそうだ。だが、ジェインの話によると、カーターは死者として復活しなかったらしい」

 そこまで言うと、アルジントは何やら考え込むように腕を組んだ。

「……このタイミングで言うのもどうかと思うが、僕の父も殺された可能性がある」


 冷たい空気が室内を通っていくようだった。

 この話をするにはまだ早いのではないか――とウェリティは口を開きかけたが、それを察したアルジントが首を振って制する。


「正直、まだヴェーチルとルーアには話すつもりはなかった。でも、そう悠長にもしていられない。――死者である僕の父を殺したのは、イルバ・マルサスだと考えている」

 ヴェーチルとルーアの顔が恐ろしいものでも見たかのように歪んでいくなかで、アルジントは平然と話を続けた。

「そして、父が悪魔となり、カーター・マルサスを殺した可能性も否定できない」


 ウェリティは長い髪を左右に揺らしながら、倒れ込むように力なく椅子に座った。瞳に映る机上の『死亡者名簿』を見て、ため息をつく。

「……もしもイルバ・マルサスに私たちが殺されるようなことがあれば、死者の解放は永遠に不可能よ。……今ここで私たちが死ぬわけにはいかないのに」


「策ならある。だが、まだ情報が足りないし、一人ではちょっと――保険が足りない。もう少しだけ時間がほしい」


「ええ、もちろんよ。そっちの件はあなたの頭脳に任せたほうが安心かもしれないわね」

 褒められたにも拘わらず、アルジントの表情は変化に乏しく、どちらかというと不満そうであった。

「……いずれにせよ、少しの間ここには来ないかもしれない。でも、結果は早いうちに報告するつもりだ」

 言い切った後、アルジントがジェインの方を見る。


「――どうする? ジェインは一緒に来るか?」


 名指しされた少年ジェインは、突然のことで焦りに目を泳がせていたが、早い決断力で迷いを振り切った。

「行きます……!」


 顔色を変えずにアルジントは頷く。

「分かった。じゃあ騎士団学校へ行くぞ。レーンに約束を取り付ける」


 迷わず扉の取手に手をかけたアルジントが、一瞬ちらりとウェリティを振り返った。

「そっちもイルバ・マルサスには気をつけた方がいい。ウェリティは特に……」

「ええ、ありがとう。あなたもね、アルジント」



 若干生き急ぐかのようにも思えるアルジントの背中を、ウェリティは少しだけ顔に不安を滲ませながら見つめていた。

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