第二話 騎士団学校

「アル、おはよう。今日はいよいよ騎士団学校ね」


 地下研究室に到着して早々、ウェリティが笑顔で出迎えた。


 乗り気しない気持ちを抑えて、アルジントは頷く。

「ああ。行くのは何時頃になりそうだ?」

「二人の授業が終わって、おそらく午後四時過ぎには到着できるんじゃないかしらね」

「分かった。……じゃあ、先にちょっと聞いてもらいたいことがあるんだが」

「あら珍しいわね」


「僕の家のことだ。かつてウェリティが生者の時、リーグルス家の屋敷の図書館に来たと思うが、その時の屋敷はどんな風に見えた? できれば、具体的に……」


「……ええと、そうね。前提として、リーグルス家暗殺は深夜に行われたもので、犯人も確定はされていない。私も全てを見たわけじゃないけど、焼け跡のような部屋もあれば、惨殺されたかのような血痕の多い部屋もあったのを覚えているわ。もちろん、事件後に遺体は全て回収されていたけどね」


 なんとなく嫌な表現に、アルジントは顔をしかめる。


「……で、死者たちはその中でどうしていた?」


「見えていないんだと思ったわね。私と見えているものが違うんだろうって。そうすれば、全てが納得できる気がしたから。むしろ、屋敷の人たちは私をよく追い出さなかったわよね」


「生者と死者の区別もできていなかった頃の話だ。何も知らない死者から見れば、ただ客人がやって来たようにしか見えていなかったと思う」


「なるほどね。アルと話すことでまだ新たに知ることもあるなんて、なんだか感慨深いわ」


 どこか夢みがちなウェリティに、アルジントはただ無言でいることしかできなかった。




 ルーアとヴェーチルが研究室にやって来て、四人は最終打ち合わせをしてから出発した。


 ここから先はウェリティの指示が全てとなり、姿の見えないアルジントは補佐役となる。騎士団学校内で任せきりになってしまうことに不安はあるものの、こればかりはやむを得ない。



 騎士団学校は街の中心部ランゲル地区の入り口にあり、この地区には現在の王であるマーディス王の住む城や政治機関などが設置されている。

 騎士団本部や大学病院などもあり、ランゲル地区に住む者は安心した生活を送ることができると言われている。医療の進歩も凄まじく、その差は地域ごとの寿命にまで影響している。


 騎士団学校は青少年にとっては憧れの的で、夢や期待を持って入学する者も多いが、訓練についていけず自主退学する者も少なくない。

 ただ、案外開放的な学校で、一般人の見学なども幅広く受け入れていることから、街に根ざした騎士団として多くの人から好印象を持たれているのだ。



 騎士団学校の門前で、二人の門番の姿を見つけた。

 彼らは身につけた重い鎧から頭だけをすっぽり出して、まっすぐに前を向いている。


「ウェリティ、彼らに用件を伝えてくれ」


 アルジントの言葉に従い、ウェリティは門番の方へと歩いていく。

「失礼します。私はラザーニ校で騎士団と街の歴史について研究している者です。学生を連れて、中に入らせていただきたいのですが」

「分かりました。では、こちらの入門票へ名前の記載をお願いします」

「分かりました」


 ウェリティは笑顔で頷くと、用紙とペンを受け取ってアルジントを除く三人の名前をすらすらと記す。

「これでよろしいでしょうか」


「はい、ありがとうございます。ローグ様、インス様、イージェル様ですね。今の時間は授業も終わっているので、学生寮と武器庫以外でしたら基本的に自由に観覧していただいて構いません。退館は一九時までにお願いします。何かわからないことがあれば、生徒でも誰でも良いので聞いてください」


「ご丁寧に、どうも」


 ウェリティはにっこりと笑みを浮かべて会釈すると、開放された門の中に入った。続いてルーアとヴェーチルが緊張した面持ちで入るのを見てから、最後にアルジントが閉門される前にさっと入った。

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