第66話 雑魚モンスター

「ここも違った……」



「ゴブリンだけでしたね。それにダンジョンも簡易的でした」



「これもハズレだったな」



 俺は手にした地図に記されたダンジョンの位置にバツ印を打つ。



 ボス部屋に入ると脱出に時間がかかるため、ボスモンスターは討伐せず、中の探索だけしてをして、例の集団が溢れ出したダンジョンかを確かめて回っていた。



 村の人に教えてもらったダンジョンの場所は4つ。



 現在3つほど捜索したが、全部ハズレのGランクダンジョンだった。



「残りは1つ。ここも違ったら、どっか別の場所にダンジョンが隠されてるということになるが……」



「トマスさんも見つけられてませんし、最後に残ってるところにいるとしたら」



 アスターシアも俺と同じ考えに至ったようで、顔を蒼ざめさせている。



「もしかしたら、俺たちと入れ違いだった可能性もあるさ」



 暗い雰囲気を打ち消すように、可能性の低い願望を口にする。



 ホーカムの街に戻ってくる最中であれば、街道は1本しかないため、俺たちとすれ違わないわけがないからだ。



「そ、そうですね」



「とりあえず、今探せる場所はあと1つだし、日も暮れてきてるから急ごう」



「はい! ガチャ様ー! 行きますよ!」



 アスターシアの声に反応したガチャが、俺たちを先導するように駆け出した。




 ガチャを追いかけ、光源を灯しながら街道を2時間くらい歩き、完全に日が暮れた頃、最後の目的地であるダンジョンの前に到着する。



 崖の下の方に、人が2人ほど並んで歩けるくらいの穴が、ぽっかりと開いていた。



 洞窟型ダンジョンか……。ダンジョン化の進行が一番分りにくいタイプのやつだって話だ。



 穴の入口付近には足跡がいくつかついてる。



 大人のよりも大きな足跡もあるし、小さい子供みたいな足跡もある。それに、みんな素足だ。



 きっと、村を襲ったゴブリンたちが溢れ出したのは、このダンジョンで間違いないと思う。



「足跡の数からみて、ここから溢れたのは間違いなさそうですね」



「ああ、そうらしい。周囲に魔物の姿はないが、中にはどれだけの魔物がいるか分からない。気を付けて調査しよう」



「はい、ガチャ様、こちらへ」



 アスターシアは、ガチャを抱えると、影潜りの外套を被り、気配と姿を消す。



「慎重に進もう」



 俺は指にはめた光球の指輪を起動させ、光球を松明代わりにして、穴の奥へ進むことにした。



 肩の上にフワフワと浮く光球が、かび臭い真っ暗な洞窟の中を照らし出していく。



 Gランクの洞窟型ダンジョンじゃ、頭がつっかえそうなほど狭い通路だったけど、このダンジョンは手を伸ばしても天井まで届かない。



 入口よりも中の方が広くなってるみたいだな。



「意外と中は広いようだ……。だいぶ、成長してるダンジョンっぽい雰囲気がしてる」



 アスターシアとガチャは、魔物に見つからないよう隠れて付いてきているため、俺の言葉に返答をしなかった。



 俺は再び神経を集中し直すと、通路を進む。



 光球の明かりが、通路の突き当りを照らし出した。



 壁の光に反応したように、曲がり角の奥が一気に騒がしくなる。

 


 曲がり角から飛び出してきたのは、斧を手にしたホブゴブリン2体と、赤い鱗を持つ巨大なワニが1体だった。



 ダンジョン内を徘徊してる雑魚モンスターがボスクラスって、ありかよっ! 見たこともないワニもいるし!



 戦うにしても、MPを消費する魔法や、クールダウンの長い戦技は、まだまだ戦闘があるかもしれないし、温存した方がいいはず。



 俺は腰に差した打刀を鞘から抜き放つと、こちらを見つけて駆けてくる魔物たちに向け構えた。



 通常攻撃だけでしのぐ戦いになるが、やれないわけじゃない。



 先頭で近寄ってきたホブゴブリンの振り下ろした斧を避けると、隙ができた胴に向かって打刀を斬り上げる。



 筋肉をスパッと切断したことで、ホブゴブリンの脇腹から緑の血が噴き出し、地面を濡らす。



「グぅ! ニンゲンノクセニ!」



 浅かった! 致命傷まで達してないか!



 傷を負い膝を突いたホブゴブリンから距離を取ると、別の魔物たちの動きを牽制する。



「ニンゲン、ワレラガスミカニ、フミコンダ! ユルサナイ! スベテコロス!」



 仲間が傷を負い、さらなる怒りを見せたもう一体のホブゴブリンが、斧を振り上げ迫ってきた。



 力こそ強いが、ホブゴブリンの動きは単調。



 攻撃モーションさえ、しっかり見ればかわせない攻撃でもない。



 1……2……3っ! 今だ!



 振り下ろされたと同時に身体を右へズラすと、斧は俺の身体に触れず地面を叩く。



「首ががら空きだぜ!」



 攻撃が空振りに終わったホブゴブリンは、体勢を崩し前のめりになった。



 すかさず首元へ向け、打刀を振り下ろす。



 手ごたえ十分! 



 ホブゴブリンの首は振り下ろした打ち刀によって断ち切られ、地面に落ちた。



 断面から噴き出した緑の血が、むせるようなきつい匂いを発する。



「アイボウヲヤッタナ! ユルサナイ!」



 脇腹を押さえて立ったホブゴブリンは、手にした瓶を俺の前に投げて割った。



 割れた瓶に収められた液体が俺の鎧に付着する。



 まさか! 毒!? 



 毒入りの瓶を投げつけられたかと思い、一瞬怯むが、痛みも苦しさも感じず、やたらと甘い匂いだけがした。



 周囲に甘い匂いが充満すると、それまで大人しかったワニの様子が激変する。



 黒かった目の色が赤く変わり、大きく開いて咆哮を放つ。



「オマエ、モウニゲラレナイ!」



 ホブゴブリンがニヤリと笑うと、赤い鱗のワニは狂ったように俺に向かって突進してきた。



「ガァアアアっ!」



 大きな口を開けたワニが、俺の身体をかみ砕こうとするが、鋭い牙は触れることなく空を切る。



 かわしたものの、その動きは巨体に見合わないほど素早いものだった。



「あっぶね! 急に早く動くとかやめてもらえるか!」



 突進を交わしざまにワニに触れ、鑑定を発動させる。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 レッドアリゲーターLV13


 HP140/140


 MP0/0


 攻撃方法:かみつき 突進 かみ砕き 尻尾叩き


 弱点属性:氷


 解体時取得物:ワニの大牙 赤い鱗 ワニ皮


 解説:洞窟に生息する巨大ワニ。巨体に見合わない素早い動きで近づき、噛み付かれると巨体を回転させ、噛み切ろうとしてくる。ホブゴブリンに使役されていることが多く、特定の匂いが付着した者にだけ攻撃モードに入るよう調教されている。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――



 こいつも低ランクダンジョンのボスクラスの強さかよ……。



 ダンジョン内を徘徊してる魔物の格が違い過ぎるぜ。



 俺が最初に攻略したダンジョンもヤベーLVの魔物が徘徊してたわけだが。



 身体の向きを変え、鼻息荒くこちらを見るレッドアリゲーターの姿を見て、俺が当初考えていたMPや戦技の温存をするべきとの考えは、改めた方がいい気がしていた。


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