第65話 探索者の仕事


 魔物の集団を倒しきると、アスターシアたちが姿を現す。



「すごい数でしたね。こんな量の魔物が溢れるとなると、相当強力なダンジョンができてる可能性がありますよね?」



「ああ、ホブゴブリンとかなんてのが外に出てくる状況は、低ランクダンジョンじゃあり得ないだろうし」



 俺は倒した死骸を検分しつつ、解体スキルを発動させて、素材化していく。



 手に入った素材はゴブリンの骨とゴブリンの大骨。



 襲ってきた集団は、ゴブリン10体、シャーマン5体、アーチャー7体、ホブゴブリン3体の計25体。



 集団の最高LVはホブゴブリンのLV10。



 そんな集団が外に溢れ出すダンジョンは、いったいどれくらいのダンジョンランクになっているんだろうか……。



「村の人にリアリーさんのところへ急報を届けてもらった方がいいですよね。これって、絶対に異常事態でしょうし」



「ああ、そうだな。リアリーさんに伝えに走ってもらった方がいいだろう。そっちは頼めるかい?」



「え、あ、はい! お任せください。村長さんに頼んできます!」



「とりあえず、俺は他の集団が周辺に徘徊してないか探してくる。ガチャは、アスターシアと一緒に居てくれよ」



 ガチャは付いてきたそうに顔を上げるが、危険が多いと判断してくれたのか、頷いてくれた。



「すまんな、ガチャ。すぐに戻ってくるから安心してくれ! じゃあ、周囲を見てくる」



 俺はガチャの頭を撫でると、アスターシアと別れ、村の周囲を巡ることにした。



 農村を囲むように作られた小麦畑の中を進む。



 収穫前の小麦が腰の高さまで伸びているが、視界はかなり開けている。



 周囲をくまなく観察し、魔物が潜んでいないかを確認した。



 他に潜んでいる魔物はいなさそうだ。



 それにしても、さっきの連中が溢れ出して向かって来た道筋をたどると、トマスが向かった方なんだよな。



 魔物を見つけても、戦闘は極力しないって言ってたから、大丈夫だろうけど。



 トマスの特性は『気配消し』だし、ダンジョン調査も魔物から上手く隠れてやりすごしてるって言ってたし。



 俺は心に浮かんだ不安をかき消すように、もう一度周囲をしっかり確認すると、急いで農村に戻った。



「ヴェルデ様、村長さんに頼んで村の人をホーカムの街に事態を知らせるよう走ってもらいました!」



「助かる」



 俺は駆け寄ってきたガチャを抱え上げると、村長と思しき壮年の男性と立つアスターシアに親指を立てて応えた。



「ガチャも、アスターシアを手伝ってくれてありがとな」



 ガチャは『お役に立つのは当然です』と言いたげに、胸を張ってきた。



 さすが俺の相棒! えらいぞ! えらい!



 抱えているガチャの背を撫で褒めてやった。



「ヴェルデ様、村の周囲はどうでしたでしょうか?」



「さっきみたいな連中がうろついておったら、わしらはホーカムの街に逃げ込まねばならんのだが」



 村長は怯えた顔で村の周囲を見回している。



「周囲を見てきたが、さっきのやつら以外魔物の姿はない」



 俺の言葉に村長は安堵した顔をした。



 あれだけの魔物が集団でうろついていると不安が募るんだろう。



 魔物たちがたどってきた道は、俺たちが調査討伐しようとしてたダンジョンとは目的地が違う。



 住民たちの安心な暮らしのためにも、魔物が溢れ出してるダンジョンがないか確認しておいた方がいいか。



「けど、魔物が溢れ出すダンジョンがあるのは確実だ。悪いけど、この周辺で発見され、探索者ギルドに報告したダンジョンの情報を教えてくれないか」



「ヴェルデ様! ランクも分からないダンジョンの討伐は――」



 溢れ出した魔物の強さを見ていたアスターシアが、俺を心配して話を遮ってきた。



「大丈夫、単独討伐などする気はないよ。他の探索者を派遣してもらうにしても、探索者ギルドには、ダンジョンの正確な情報を渡さないといけないだろ」



「そうですが……」



 俺は話を遮ったアスターシアを宥めると、村長にもう一度尋ねる。



「村長さん、発見したダンジョンの位置を教えてくれ。俺――」



「わたしたちが確認してきます。探索者なので!」



「アスターシア!?」



「わたしもヴェルデ様のパーティーの一員ですから、調査に同行させてもらわないと困りますよ! ねぇ、ガチャ様!」



 抱えているガチャも、置いて行かれるのは心外だとばかりに鼻息を荒くした。



 安全を確認してくるから、ここで待ってろっていう俺の考えはお見通しってわけか……。



 Dランク以上のダンジョンだった場合、2人を守って探索するってのも厳しいかなと思ったが、この様子だとやるしかないな。



「分かった。分かった。2人ともわかったから。村長さん、俺たちが確認してくるから、分かる範囲のダンジョンの発見場所を教えてくれ」



「あ、ああ、すぐに村の者に地図を描かせてくる! ちょっと、待っててくれ!」



 村長は慌てて広場に向かい、村の者を集め、周囲で発見されたダンジョンの位置を書いた地図を作ってくれた。



 村長から地図を受け取った俺たちは当初の目的地を変更し、魔物の集団がたどってきた道を進み、強力なダンジョンが発生していないか確認することにした。

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