第67話 急速成長するダンジョン


 動きが速いっ! ホブゴブリンたちの動きとは段違いの速さ!



 体勢を整えたレッドアリゲーターが、巨体を揺らし、口を大きく開けながら、再び突進してくる。



 突進ではね飛ばされ、こっちが尻もちを突いたら、あのデカい口でガブリってわけか!



 そんなことはさせない! MPは消費するけど、クールタイムの短い魔法ならっ!



 アイスの魔法を発動させると、突進してくるレッドアリゲーターの大きく開いた口に向け、拳大の氷を放つ。



 氷はレッドアリゲーターの喉にヒットすると、口元を凍らせた。



「それで、こっちをかじれないだろ」



 魔法攻撃を受け、突進を止めたレッドアリゲーターは凍り付いた口元を気にするそぶりを見せた。



 しめた! 動きを止めた! 今なら――



 とどめを刺そうと近づくと、レッドアリゲーターの口元を凍らせていた氷にヒビが走る。



 次の瞬間、氷は粉々になって砕け散った。



「かみ砕いたのかよ!」



 トドメを刺そうと攻撃範囲に近寄っていた俺に、死角からレッドアリゲーターの尻尾が飛んでくる。



 尻尾はプロテクションシールドの障壁によって阻まれるが、シールド値が大きく削られてしまった。



「尻尾も飛んでくるとはな」



 村を襲ってきたゴブリン集団との戦いでも削られてたし、破壊されるまで永続展開で、再展開できないやつだし、残りの耐久値からして、次一発喰らったら破壊される。



 尻尾が弾かれたレッドアリゲーターは、すばやく体勢を立て直し、みたび大きく口を開くと、俺ごと撥ね飛ばすため、突進を開始した。



 こんな強めの魔物が徘徊してるとなると、大規模なパーティーを組んで攻略するランクまで成長してるんじゃ。



 改めて自分たちが調査に入ったダンジョンのヤバさを再確認した。



 今までのダンジョンに比べれば、危険度はかなり高い。



 先ほど使用したアイスの魔法のクールタイムが完了し、スキルの再使用が可能になった。



 レッドアリゲーターだけは、一気に倒しておかないとマズそうだ。



 突進してくるレッドアリゲーターに向け、居合いスキルを発動させる。



 自動的に身体が動き、鞘に納められた打ち刀をレッドアリゲーターの口に向かって高速で抜き打ちした。



 手応えありだ!



 打ち刀の刃先は、レッドアリゲーターの固い皮と鱗をものともせず、口から腹まで一気に斬り裂いた。



「ガァアアア!」



 口から腹まで斬り裂かれたレッドアリゲーターは、巨体から真っ赤な血が噴き上がり、小さく身震いすると絶命する。



 相方のレッドアリゲーターを斬り殺されたホブゴブリンは、怒り傷の痛みを忘れたように、斧を振り上げ襲ってきた。



「ワガ、アイボウヲヨクモ!」



「こちらには、アレに大人しく食われてやる義理はないからな」



 傷を負って力のないまま振り下ろしたホブゴブリンの斧を軽く避ける。



 体勢を崩し、無防備になったホブゴブリンの首へ打ち刀を振り下ろし、トドメを刺す。



 首を失いドサリと倒れたホブゴブリンから、緑の血が流れ出し、ダンジョンの地面は赤と緑の血が混じり、黒く染まっていた。



「ふぅ、雑魚モンスターでもボス戦みたいな緊張感だ」



「ヴェルデ様、ご無事でよかった」



 外套を脱いだアスターシアが姿を現す。



 彼女が邪魔にならない場所に、ガチャと一緒にジッと隠れ潜んでくれてたおかげで、魔物討伐に集中できた。



「とりあえず無事だけど、徘徊してる魔物が強い。やはり、ここが村に来たゴブリン集団を溢れさせたダンジョンに違いない」



「魔素濃度も相当濃いようですよ。入ってまだ10分も経ってませんが」



 アスターシアが差し出した調査用の黒い板から浮かび上がる魔素濃度の数値は、すでに100%を超えている。



「測定開始して10分で、極めて速い成長……を超えてる……嘘だろ。1時間測定したらどこまで増えるんだ」



「分かりません……。今も上がり続けてますし。それに魔物も……」



 モードを切り替えたアスターシアが、倒したホブゴブリンとレッドアリゲーターを赤い光で調査する。



 登録された魔物は、EとかDランクダンジョンのボスクラス。



「この周辺の人たちにとって非常に危険なダンジョンだよな」



「ええ、これだけ成長速度が速いと、新しい魔物が生まれるのも早いでしょうし、強い魔物が生成されるのも時間の問題な気がします」



 成長速度の速さからして、今の現状でもCランクくらいまでは成長してそうだ。



 こんなダンジョンを探索者がほとんどいない、この地域に放置していいものじゃないよな……。



 村の人がホーカムの街に走ってくれてるし、リアリーさんからヴェンドの街の探索者ギルドに緊急事態の連絡の連絡が行けば……。



 でも、最速で一週間はかかるか。それまでに新たな魔物集団が溢れ出す可能性も高い。



 ダンジョンの脅威が明らかになるにつれ、調査だけではマズいのではという気持ちが募る。



 俺がやれるだけのことは、やったほうがいい。



 とりあえずダンジョンの探索と内部の魔物の数を減らす。



 いけそうなら、ダンジョンボスまで討伐するって感じにしとこう。



 じっくりと腰を据えて探索しないとな。



「アスターシア、今日からしばらく泊りになりそうだけど、大丈夫か? 野営とかするつもりだけど」



 アスターシアも、このダンジョンの探索は日帰りで終わらせられるものではないと察していたので、頷き返してくれた。



 幸い食材や水は空間収納に収めてあるので、十分に確保できている。



 休息時はダンジョンの入口を塞いでおけば、簡単に外には出てこれないはずだ。



「よし、あと1時間だけ探索を続ける。今日はそこで終わりだ」



「はい、そうしましょう」



 再び外套をかぶり、能力を発動させたアスターシアたちの気配が消えたのを確認すると、倒した魔物を解体し素材を回収する。



 素材回収を終えると、探索を再開することにした。

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