第48話 命大事にで行こう


 お散歩したかったガチャが、元気よくレバーを回し、俺たちの前方の山道を駆けていく。



 最近は、街のみんなからおやつをおねだりしまくっているため、お腹が少しぷにぷにしてきた。



 ガチャガチャマシーンのお腹がぷにぷにするんだぜ。



 まぁ、でも一度触ったら病みつきになるぷにぷに加減ではあるんだが。



「ガチャ―、離れたらダメだぞー」



 声に振り向いたガチャが、レバーを回して応える。



 俺にだけガチャガチャマシーンに見えるガチャだが、それでも可愛く感じてしまう最高の相棒だ。



「そう言えば、今日の探索と調査を終えたら、明日はお休みにするとのことでしたので、そろそろガチャ様の首輪を買った方がよろしいかと。ホーカムの街の人は大半がヴェルデ様の飼い犬と認識してますが、他の街から来た人が野良犬と間違える可能性はありますので」



 ガチャの首輪かー。人懐っこいやつで危害を加えるような子じゃないから、できれば首輪は付けたくないんだけどなぁ。



 でも、トラブル回避のお守りとして、飼い犬の証である首輪を付けざる得ないか。



 街にいる別のわんこたちは首輪を付けてたしな。



 それに理由を話せば、ガチャが賢いから理解してくれるだろうし。



「分かった。明日、買い出しついでにガチャに合う首輪も探すとしようか」



「ありがとうございます! ガチャ様は真っ黒な体毛ですので、真っ赤な首輪が目立って似合うと思いますよ!」



 アスターシアが少し興奮気味にガチャに付ける首輪に赤色を押してくる。



 彼女もガチャも可愛さにメロメロにされてしまった同志であった。



「赤色かー、たしかに似合いそうだな。でも、他の色も試してみたいな」



「そうですね。ガチャ様なら何色でも似合ってしまいそうですが」



「違いないな」



 二人とも親ばかならぬ、ガチャばかなので、きっと何個も首輪を買う未来しか見えないわけだが。



 でも、ガチャは可愛いからしょうがない。



 そのためにも今日はしっかりと稼がないといけないな。



「ガチャー、現在位置を確かめるから戻ってこーい」



 俺の声に反応して、先行していたガチャが急いでこちらに駆けてくる。



 俺の視界では、ガチャガチャマシーンの筐体にわんこの足がにょきりと生えてるわけだが、駆ける姿には躍動感があってかっこいい。



 おっといけない。可愛いガチャの走りに夢中になっている場合ではなかった。



 未調査ダンジョンの位置を確認しないとな。



 探索者ギルドが、ダンジョンを発見した住民から聞き取ったメモ書き程度の地図に視線を落とす。



 マップから見える地形から推測して、そろそろ見つかるはずなんだが。



 調査済みのダンジョン探索でホーカムの街周辺を歩き回っているため、マップの踏破済み区域は増えている。



 郊外の農村の位置や、目印になりそうなランドマークなどの書き込みも増え、今回の未調査ダンジョンの位置の推測も容易だった。



 えっと、地形的にもう少し南側に進めば、地図の場所にいけそうだけど。


 

「こっちに進めば、あと少しで到着しそうだ」



「承知しました。ですが、ガチャ様が水を飲んでますので、わたしたちも少し休憩をした方がよいかと」



 ガチャは走り疲れたのか、アスターシアから水をもらっていた。



 街から2時間くらい歩き通しだったしな。調査前に休憩も入れた方がよさそうだ。



「そうだな。街からずっと歩き通しだったし、少し休憩しようか」



 二人とも近くの切り株に腰を下ろし、水分補給を始める。



 ぬるい水だし、革の匂いが付いててお世辞にも美味いとはいえないが、外のこの景色を見ながら飲めればそれも悪くない。



 遠くにホーカムの街や周辺の農村にある畑や手が入った森林、街道並木などが見え、吹き抜ける風が緑の匂いを運んできてとても心が和む。



 日本にいた時は、冷たいコンクリートのビルしか見えないところを往復してただけだから、こっちに来てから見る物全てに癒されている。



 もちろんガチャによる癒し効果も抜群なのだが。



 異世界ウィンダミアでの生活は飯も美味いし、風呂もあるし、快適ではあるんだが、『渡り人』が忌み嫌われる存在であることだけが残念だった。



 水を飲みながら景色を見ていた俺の足元に、ガチャが近寄ってきた。



「そろそろ、休憩は終わりって感じか? ガチャ」



 ガチャがブンブンと頭を振って頷き返す。



「アスターシアも休憩はできたかい?」



「はい、大丈夫です」



「よし、行こうか! ガチャ、目的地は向こうだからなー」



 俺の指差した先へ、先導をするようにガチャが再び駆け出し始める。



 俺とアスターシアは、ガチャの後ろに続いて目的地の未調査ダンジョンへ向かった。



 山道をしばらく進み、道が途絶え獣道もなくなり、下草の生えた森の中に入ると、調査目的地である樹海型ダンジョンの目印となる蔦草のアーチが目に入った。



「ガチャ、アスターシア、これより未調査のダンジョンの調査を開始する。先頭は俺、ガチャはアスターシアの近くにいるように」



 ガチャは後ろに下がり、俺は腰の短剣を引き抜くと、蔦草のアーチをくぐっていく。



 ダンジョンの中は、木々が密生してて蔦草が生い茂り迷路を作り出してる感じだな。



 暗闇じゃないのが救いだが……。



 形状からして生まれたてのダンジョンってわけでもなさそうだ。



「単純なダンジョンっぽくなさそうですね。けっこう進化してるんでしょうか?」



「集落からかなり外れてるし、山奥にできたダンジョンだから、住民が見落としてるのかもな。猟師くらいしかこの辺は入らないって言ってたし」



 ダンジョンは自然発生するため、予想外の場所にできることもあり、見落として成長しているということもよくあると聞いている。



 さすがに魔素の薄い場所で自然発生するダンジョンが、Sランクまで成長するようなことは起きないらしいが。



 慎重に歩いていくと、不規則に動く草むらが目に入ってきた。



 怪しさ満載なんだよなぁ。



 アスターシアたちに止まるよう手で合図し、短剣を鞘に戻すと、いつでも『居合』スキルを放てるようにして近づいていく。



 怪しく動く草むらまであと数歩まで近づくと、地面が割れ、尖った根っこが俺の心臓をめがけて飛んでくる。



「当たるかよっ!」



 尖った根の攻撃を避けると、数歩の距離を詰め、『居合』スキルを発動させる。



 身体が自動的に反応し、鞘から抜き放った短剣が草むらの中にいた生物を一気に両断した。



「やったか?」



「まだです! 後ろ!」



 アスターシアの声に反応し、後ろを振り返ると、別の尖った根がこちらの心臓を狙っていた。



「別のか!」



 心臓を狙う尖った根を短剣で切り払う。切った断面から白い樹液みたいな液体が噴き出した。



「本体はどこだ?」



 アスターシアの近くにいたガチャが駆け出し、レバーを回して敵の本体がいる位置を教えてくれた。



「ガチャ、えらいぞ!」



 敵まで少し距離があるが、クールタイムが終わってない。



 連撃を発動させてクールタイムをキャンセルし、エネルギーボルトを撃ち込む!



 すぐさま腰に差したシャーマンの杖に持ち替え、連撃スキルを発動させると、魔法が発動し、眩く光る必中の矢が妖しく動く草むらの奥に突き刺さった。



 魔法が着弾した直後、白い液体を噴き出していた根っこが震え、地面に倒れて動かなくなる。



「ふぅ、もう敵はいないな。えっと、魔物に赤い光を当てるんだったな。鑑定すれば一発で何者か判明するんだが――」



 最初に倒した草の魔物に黒い板から発せられる赤い光を当てていく。



 ついでに鑑定も行った。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 絡み根草 LV4


 HP0/20


 MP0/0


 攻撃方法:絡みつき、吸血


 弱点属性:炎


 解体時取得物:絡み根 白い樹液


 解説:ウィンダミアの森に生息する根菜魔物。尖った根っこを突き刺し、生物の体液を吸う。根っこや白い樹液はポーションの材料にされたりする。本体は草むらの中に隠されている。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――



 草の魔物か。怪しい動きをしてくれてたから見つけられたな。



 解体すると、ポーションの材料になるらしいから、解体もしておこう。



 ゴブリンの角よりかは、高く売れるかな。



 赤い光が点滅し、情報の読み取りが完了したことを告げてくる。



「さすがヴェルデ様ですね。問題なく初見の魔物も倒されてしまいました」



「アスターシアが声をかけてくれたおかげだし、ガチャが敵を見つけてくれたおかげでもあるさ」



 俺のもとに駆け寄ってきたガチャを抱き止め、わしゃわしゃと撫でてやる。



「敵が弱くても、油断なく対処しないとな。ダンジョンは何が起きるか分からないわけだし」



「そうでした。油断なくまいりましょう」



「ああ、命大事にで行こう」



 そう、リアリーさんにも言われてるけど、探索者は死んだら終わり。



 死なないよう慎重にやらないと。ガチャたち残して死ねないわけだしな。



 俺はガチャを撫でまわすのをやめると、倒した絡み根草を解体することにした。

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