第49話 宝箱にはご用心
魔物を倒し、探索調査を再開する。
蔦草の作る迷路は、いままで探索したダンジョンの中で一番長く複雑に作られており、誕生してそれなりの時間が経ったもののようだった。
先頭で歩いている俺の服を、後ろから続いてあるいているアスターシアが引いた。
「どうした?」
「その先、通路の角に隠蔽されてる金属の宝箱です。けっこう大きいですね」
隣に来たアスターシアが指差す先を見たが、やはり俺には一切見えない宝箱であった。
どこにあるんだろうか? 指先を追っても影も形もないんだよな。
「えっと、この辺?」
「いえ、もっと奥です。少し、左。あと少し左です」
宝箱が見えているアスターシアに誘導してもらい、隠蔽されている宝箱の位置を手で探る。
宝箱を探っていると、視界の端が黄色く染まった。
ん? 何だコレ? 何が起きた? 視界が変化してる?
視界の変化に気付いた時、微かに何かが動く音が耳に聞こえた。
音の出た部分を見ると、隠蔽が解けた鉄の箱が口を開けて、俺の手にかぶりつこうとする姿が飛び込んでくる。
「おわっ! ミミックかよっ! 隠蔽されてるとか、そんなのありかよっ!」
「ヴェルデ様!?」
かぶりつこうしたミミックの口から急いで手を引く。
さっき視界の隅の色が変化したのって、ミミックの奇襲を感知した直感スキルが働いたってことかっ!
アラートみたいなのが鳴るのかと思ったが、ちがってたらしいな。でも、助かった。
攻撃を避けられたミミックが、再び地面を蹴ってこちらに飛びかかってくる。
金属系のボディだから、刃が通らなさそうだが、これなら――
ファイアの魔法を発動させると、杖先から出た炎がミミックの身体を炙る。
炎に炙られたミミックが苦しそうに口を開閉したのを見て、連撃スキルを発動させ、魔法のクールタイムをキャンセルするとアイスの魔法で一気に冷却する。
急速に熱を奪われたミミックは、身体にひびが入って一気に動かなくなって地面に落ちた。
「ふぅ、びっくりした」
「お怪我はありませんか! あ、あの宝箱が魔物だとはおもいませんでした! 申し訳ありません!」
駆け寄ってきたアスターシアが俺の手を取る。
動く前の隠蔽されたミミックは、彼女にしか見えてなかったので、とても申し訳なさそうに頭を下げた。
「無事だったし、問題ないさ。隠蔽されてる宝箱が、普通ミミックなんて誰も考えないって。ほら、頭上げてくれ」
「ですが、わたしがもっとしっかり見てれば――」
「でもさ、ミミックだったおかげで、直感スキルの警告の仕様が分かったから、次からはもっとうまくやれる。だから、問題なし」
俺は頭を下げたままのアスターシアの肩を抱き、顔を上げさせた。
「お役に立てず申し訳ありません……。これでは探索仲間失格ですよね」
いつも探索であまり役に立たないことを気にしてるみたいだし、唯一役に立てると彼女が思ってる隠蔽された物を発見する力で、俺が魔物に襲われる事態に陥ったのが相当ショックみたいだった。
「なんでだ? アスターシアは、隠蔽された物を見つけるという仕事をしっかりとしてるだろ。そこから先は俺の仕事。だろ?」
「ですがー」
「一緒に戦うとか、探索の役に立つとかだけが仲間じゃないって話。いろんな手助けをしてくれるアスターシアだから、俺は背中を預けてるわけだしね」
「で、ですから、少しでもヴェルデ様のお役に――」
「今でも十分役に立ってるから大丈夫だって。それにこれからも一緒に探索者として生活していくんだしさ。だから慌てずゆっくりと成長すればいいんだって。俺だって失敗することもあるわけだしさ」
アスターシアはまだ考え込んでいるようだが、しばらくすると顔を上げて頷いてくれた。
「わ、分かりました。この失態は成長で挽回いたします!」
んーっと、たぶん分かってくれたよな? たぶん……。
「ガ、ガチャ様ー! そのようなところに入られてはいけません―! ガチャ様! お止まりください!」
動かなくなったミミックを興味深げに見て回っていたガチャが、その箱の中に入ろうとしている。
その姿を見て焦ったアスターシアが、俺の前を駆け抜けた。
「ガチャ―、入ったらダメだ! 死んだの確認してないし、すぐ出て!」
気付いた俺もガチャを救いに駆け出す。
時すでに遅く、ガチャの身体はミミックの亡骸の箱の中に落ちていた。
開いていた鉄の宝箱の蓋がバタンと閉じる。
「ガチャ―!」
「ガチャ様ー!」
は!? まだ、生きてた!? マジか!? 嘘だろ!?
鑑定してなかったし、死んでるって確認はしてなかったけど、嘘だろ!? 嘘だよな!
「ガチャ様! そんな! こんなことになるなんて! 嘘ですよね!」
焦ってしまい、足がもつれそうになるが、ひび割れた鉄の宝箱に駆け寄ると、泣きそうな顔をしているアスターシアとともに、ガチャが閉じ込められた宝箱の蓋を開けた。
そんな『こんなんでましたー』みたいなドヤぁ顔で、アイテムを見せなくてもいいんだが……。
っていうか、ガチャガチャマシーンのガチャに、顔があるといつから錯覚しているんだ俺は。
違う、違う、そういうことじゃない。無事だよな?
俺は急いで箱の中からガチャを抱え上げると、身体を調べる。
「ふぅ、無傷だ……」
「びっくりしましたー」
器用にレバーにアイテムをひっかけたまま、俺を見上げるガチャは、まだドヤぁ顔をしている――ような気がした。
俺には心の目でしか、わんこのガチャを感じ取れない。
俺にしか見えないガチャガチャマシーンの筐体には、目も鼻も付いてるわけじゃないしな。
でも、残像なのか、俺の願望なのか、不意にわんこに見えたりもする。
ガチャガチャマシーンのガチャも嫌いじゃないんだけどな。
「ガチャ、勝手に宝箱に近づいて入ったらダメだぞ。死んでたからいいようなものの、生きてたら――」
「ガチャ様、きっとガチャ様もヴェルデ様の役に立ちたかったんですよね」
怒られてシュンとしたガチャの頭をアスターシアが撫でていく。
その通りだと言いたげにガチャが頷いた。
そ、そうか……ガチャはそこまで俺のために……くぅ、いい相棒だ。
はぁー、かわいいなぁ、ガチャ、カワイイよ。ガチャ!
抱き上げていたガチャを思わずそのまま頬擦りしてしまった。
「ガチャ様、ヴェルデ様がとても心配されますので、先ほどのようなことは自重してもらえると、わたしも安心できるのですが」
ガチャも怒られたことで、やってはいけないことだと理解してくれたようで、アスターシアにウンと頷きを返す。
やっぱ、うちのガチャは賢さMAXで、可愛さMAXだな。
って、俺は親ばか? いや、ガチャばかか?
それから、みんなで一緒にミミックの鑑定と登録作業を行い、ゲットしたアイテムの鑑定を行うことにした。
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