第47話 調査依頼を受けてみた



 翌朝、調査済みのダンジョン探索依頼だけでなく、未調査のダンジョンの調査依頼を受けるため、アスターシアには探索中の食糧の買い出しを頼み、俺はカウンターでリアリーさんの説明を聞いている。


「はい、じゃあ、これが調査機器ね。落としちゃだめよ。紛失した場合は実費で1500ゴルタを負担してもらうからね」



 未確認のダンジョン調査依頼を受けた俺の前に、リアリーさんが黒い板みたいな機器を差し出してくる。



 口座には2515ゴルタあるが、紛失して1500ゴルタ出費となると痛すぎるな。



 説明を聞いたら、絶対に失くさないように、使う時まで空間収納にしまっておこう。



「で、使い方は簡単。こうやって板に触れれば――」



 何もなかった空間に選択ウィンドウが浮かび上がる。



 えっと、敵情報、マップ埋め、ダンジョン成長速度測定、脅威度判定って項目が出てるな。



「この項目を埋めればいいんですか?」



「ええ、そうよ。まず敵情報からね」



 リアリーさんが敵情報を選択すると、赤い光が板から発せられる。



「この光を魔物に数秒当てれば、種類の判別がされるわ。この光は魔物には見えないらしくって、気配を消して当てれば見つからないようになってる。あと、未発見の魔物って表記が出たら、図鑑登録されてないやつだから速攻で逃げてね」



 未発見だとヤベー魔物ってことになるんか。



 俺の持つ鑑定とはまた違った感じの判別になるんだろうが、なんにせよ情報のない魔物とは戦わない一択だな。



「逃げます。俺は命が惜しいので」



「いい返事ね。探索者は、生き残ってこそ、稼げるのよ。ああ、話が逸れたわね。次はマップ埋め、これは板を持って歩き回れば自動で埋めてってくれるわ。ダンジョン内を全部調べ終われば、板が青く光るはず」



「マップを埋める際、隠蔽されてる隠し部屋とかには反応します?」



「隠蔽された入り口を見つけなかったら、反応はしないで歩いていける場所が埋まった段階で青く光るはずよ」



 隠蔽されてる部屋には無反応か。



 アスターシアが持つ隠蔽看破で、見つけた隠し部屋とかあった場合は、そこも確認しないと完了しないってわけだな。



「次は、ダンジョン成長速度測定ね。これはダンジョン内で測定モードにすれば――」



 リアリーさんがウィンドウを選択すると、板から緑の光が点滅するように発光する。



「これで1時間ほど放置すれば測定が終わるわ。成長速度が遅いところは1~29%、やや早いところが30%~69%以上、早いは70%~99%、極めて速いが100%以上ね。ちなみに『重点探索指定地区』に指定された『オッサムの森』が平均300%以上。このホーカムの街は平均3%くらいになってるわね。魔素の濃さで成長速度は変化するわけなんだけど」



 数字オッサムの森が異常なほど魔素の濃い地域になっているってわけか。



 放置すれば、あっという間に成長して、魔物をダンジョンの外にまで送り出してくる。



 統一ダンジョン協会や国が、成長速度の速いダンジョン潰しに躍起になる気持ちも分かる気はする。



 かといって、低レベルダンジョンを放置してもいいというわけでもないと思うんだが。



 難しいところだと思うけど、バランスを取って欲しいところではあるなぁ。



 ホーカムの街だけでなく、クルリ魔導王国の大半の街が同じ問題を抱えてそう。



「あとは、最後に脅威度判定。これは、敵情報とマップが埋まり、ダンジョン成長速度の測定が終われば、その段階で自動的に判定されるわね。S、A、B、C、D、E、F、Gの8段階評価がされる。これで調査依頼は達成になるわね」



 俺が最初に目覚めたダンジョンが、Aランクだってデキムスが言ってたはず。



 もしかしてSランクとかも余裕とか?



 って、油断して探索すると罠とかに引っ掛かって即死ってコースなんだろう。



 地道に経験を積んで探索者として生活資金を稼げるようになっていこうと思う。



「で、その板を探索者ギルドに出せば、支払われるってことですね」



「ええ、そうね。調査と探索を同時に受けてたら、調査依頼の報奨金と、攻略した報奨金が別にもらえるようになっているから、ヴェルデ君たちの場合、同時に受けていった方が稼げるわよ」



 ダンジョンは攻略されたら消えるのに、統一ダンジョン協会がすでに攻略されてしまった調査報告依頼に報奨金を支払う意図はなんだろうか?



 役に立たない情報だけど、労力に対する報奨金ってことか?



「リアリーさん、同時で受けてた場合、攻略されたダンジョンの調査情報は無価値になると思うんですが、なぜ報奨金が支払われるのです?」



「ああ、それ? 統一ダンジョン協会は、ダンジョンの研究機関でもあるわけで、ダンジョンに関するすべての情報を欲しがってるからお金を払ってくれるのよ。どこでどれくらいのダンジョンがどんな成長をしていたかって情報だけでも重要な情報だしね」



 調査依頼は、探索依頼の情報提供だけでなく、ダンジョン研究のためのデータ取りを兼ねてるのか。



 情報をもとに各国へのいろんな指示や指導が行われるって感じかな。



 なにせ、国家を超える権限を持った世界的な組織だし。



「教えて頂きありがとうございます。これで、迷うこともなく調査依頼は遂行できそうですよ」



「まぁ、未調査のダンジョンに潜る時は、調査済み以上に慎重にね。ホーカムの街周辺はGとか、ごくまれにFしか見つかったことがないけど、中には何百年も人目付かず成長してるダンジョンがないわけじゃないし」



「はい、ちゃんと気を引き締めて未調査のダンジョン調査依頼は遂行しますよ。じゃあ、行ってきます!」



「はいー、行ってらっしゃい! ガチャちゃんも今日は帰ってきたらお野菜食べてねー!」



 俺が調査依頼の話を聞いてる間、リアリーさんに見えるよう愛想を振りまいていたガチャが、野菜と聞いた途端にカウンターから飛び降り、アスターシアが待つ入口へ向かって猛ダッシュしていった。



「ガチャー、待ってくれー」



「もうー、ガチャちゃんはしょうがないわねー」



「ヴェルデ様ー、ガチャ様がこちらに来られましたが、そろそろ出発ですかー?」



「ああ、出発する。リアリーさん、帰ってきたら、ガチャにもちゃんと野菜も頑張って食べさせます」



「どうせ、またガチャちゃんに見つめられてヴェルデ君が食べるんでしょ?」



 図星すぎる。ガチャに野菜を食べさせるなんてことを俺にできるかは不明だった。



「頑張ってみます。ダメなら、すみません!」



「まぁ、しょうがないわね。嫌がるものを無理やり食べさせるのもねー。食べなかったらヴェルデ君がちゃんと食べてね」



「はい、任せてください! では、探索行ってきます!」



 リアリーさんは少し呆れながらも、笑って俺たちを送り出してくれた。

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