第44話 調査専門探索者の生き方
「はい、依頼報告終わり。タグペンダント返すわよ。褒賞金は口座に入れたからね」
「ああ、すまない。これでしばらくは食える」
トマスの前に浮かんだウィンドウの数字は見えないが、満足できる額が支給されたのだろう。
基本的に未踏破のダンジョンの調査依頼の方が、報酬が高いって話をリアリーさんから聞いてるし。
「そうなんだけどね。実は、そっちのヴェルデ君が調査済みのやつをどんどんと攻略しちゃっててね。調査済み依頼が在庫切れしそうなのよね。ほら、調査専門の探索者はトマスしかいないわけだし」
「は? けっこうあったはずだろ?」
「それが、この1週間で20個ほど達成しちゃって。それに調査報告の有効期限が切れたダンジョンも重なっててね。依頼の在庫がかなり減ったのよ」
「期限切れか……」
調査報告って有効期限があるのか? 一度調査したら終わりかと思ってた。
2人の会話が気になったので、『有効期限』に関して聞いてみる。
「話に割り込んですまないけど、ダンジョンの調査報告の有効期限ってどれくらい?」
「そう言えば、あんたは探索者なり立てだったな。いいだろう、教えてやるよ。基本的に調査報告は3か月で廃棄される。攻略されないダンジョンが進化するからな。あと『重点探索指定地区』の場合、1カ月で廃棄だ。進化が早すぎる場所だから報告書の期限も短い」
「3か月? 進化するとはいえ短いんでは?」
「統一ダンジョン協会が廃棄期限を定めてるんだからしょうがないだろ。古い情報は提供できないようにされてる。だから、オレみたいな低レベルダンジョン調査専門の探索者ってのが成り立つわけ」
「つまり、期限切れ低レベルダンジョンを再調査することで何度も稼ぐ形できると?」
「ああ、もちろんだ。でも、ちゃんと未調査もやってるわけだが。それにしても、1週間で20個も攻略されちまったか」
俺が調査済みのダンジョン攻略しまくってしまったから、トマスが再調査による依頼料を得られなくなり、困ることになるな。
調査専門探索者に、そういった仕組みがあるとは知らなかったわけだが。
「なんか、すまないな。俺が知らずにあんたの稼ぎのネタを減らしたらしい」
「まぁ、まだまだ未調査ダンジョンも多いし、期限切れたやつも残ってるから問題はない。なにせ、ここには探索者が3人しかいないからな。オレが依頼達成した調査済みがなくなったら、調査依頼もやってみればいい。オレみたいに攻略しないよりか、調査と攻略を同時に行った方が稼げるしな」
「なるほどな。先輩からの助言は心にとどめておく」
「なら、明日以降はヴェルデ君たちにもダンジョン調査を振ろうかしらねー。住民からダンジョン目撃情報が溜まってるわけだしー。確認と攻略もして欲しいわね」
「攻略はヴェルデに振れ。オレは調査しかしねーよ」
トマスの返答に、リアリーさんが肩を竦めた。
ソロ探索する上で極限までリスクを取らない形を選ぶのは賢い選択だと思う。
死んだら終わりなわけだし、調査を達成すれば報酬はもらえるんだから。
そういった探索者生活もあるって分かったのは、非常にありがたい。
「だってさ。ヴェルデ君」
「調査も頑張ってみますよ。何事も経験してみないと分からないですしね」
「それもそうねー。あら、ガチャちゃんはもうご馳走さまかしら?」
俺の膝の上に座って、カウンターの上の自分の食事を終えたガチャが、リアリーさんの問いに頷くと、床に下りたいと要求してくる。
床に下ろすと、トトトと駆け出し、酒場の客席の人たちのところへ駆け出す。
酒場にくる町の人にも愛想を振りまきまくるガチャは、すでにみんなの看板犬であり、店の中で放しても文句言う人はいなかった。
「ガチャー、今食ったばかりだから、みんなに食い物ねだったらダメだぞー」
客のところに駆け寄っていたガチャが、びくーんと身体をこわばらせ、こちらに振り返った。
「さっき野菜も食べなかったし、食べ過ぎだからダメだぞ」
しょぼんとしたガチャは、酒場の客の前で床に倒れ込んで哀れさを感じさせる格好をする。
「ガチャは芸達者だなぁー」
「さっき食べてたの見てたしのぅー」
「野菜食うか? 野菜?」
客たちも食いしん坊なガチャを見て、ニコニコ笑いながらその様子を見た。
「あんたの相棒は人気者だな」
その様子を見ていたトマスも釣られて笑っていたようで、先ほどよりも表情が緩んでいる。
「まあね。うちのガチャは可愛いからしょうがない」
「はいはい、おしゃべりはそこまでー。本日の夕食ができたわよー。ウェンリーもアスターシアちゃんも一緒に食べなさいねー」
それから俺たちはトマスとウェンリーの兄妹とともに食事をすることになった。
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