第43話 探索者トマス
風呂でぶっ倒れ事件から1週間、ホーカムの街は温泉を使っている共同浴場が再開したことで、多少活気を取り戻し街には人の姿が増えた。
一方、俺たちはと言うと、毎日休むことなくホーカムの街の周辺にある生まれたてGランクダンジョンの攻略を続けている。
1週間で攻略した数は、18個。金色コインは探索初日攻略分と合わせて20個が貯まった。
戦闘や探索に不便を感じなかったため、一気にガチャろうと思いコインはそのまま持っている。
あと、魔物との戦闘を続けたことで、アスターシアのLVが5まで成長し、新たな特性である『メイド』を開花させている。
ちなみに『メイド』スキルを鑑定した結果は――
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ランク:R
スキル名:メイドⅠ
種別:ジョブ
効果:清掃、洗濯、炊事技術の向上
ステータス補正量:STR+5 VIT+5 INT+5 AGI+5 DEX+5 LUK+5 HP+10 MP+10
デメリット効果:なし
装備制限:衣服にメイド服着用制限 部分鎧の装備可能
魔法発動:可能
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ってなジョブスキルだった。
デメリットなしでオールステータス上昇するジョブだが、メイド服着用の制限かけられるため、ガチャから出ても男の俺は選択したくないジョブである。
さすがにメイド服を着てフラフラしてたら衛兵に捕まりそうだしな。
アスターシアの新たな特性の開花というイベントもありつつ、効率よく依頼を達成したことで、、リアリーさんの探索者ギルドに溜まっていた、生まれたてで中が確認されたGランクダンジョンの探索依頼が本日の分で尽きた。
Gランクダンジョンの探索達成による褒賞金は、850ゴルタ。
宝箱から見つかった物はほとんどが小さい魔石であったが、15個ほど見つかり、1個150ゴルタで全て買い取ってもらい2250ゴルタを得た。
残念なことに生まれたてのダンジョンであるため、隠蔽された宝箱は1つも見つかっていない。
あと、素材も買い取ってもらったが、Gランク、それもできてすぐのため、スライムとゴブリンしか出ず、こちらは100ゴルタほどの金にしかなっていない。
それでも3200ゴルタだ。
アスターシアと折半して1人1700ゴルタを手に入れた。
そして今は、今日の依頼報告を終えて、リアリーさんの店で夕食までの時間を潰している最中だ。
「ガチャちゃん、お代わりはするのかしら? ほら、今日は特別にお野菜もあるわよー」
専用のお皿に盛られた肉のペーストに頭を突っ込んでいるガチャに、リアリーさんがレタスの葉を差し出している。
「ほらほら、お野菜も食べないと大きくなれないわよー」
リアリーさんの声に、夢中でご飯を食べてたガチャがお皿から顔を上げたが、手にしたレタスの葉を見て顔を背け、レバーを勢いよく回す。
そうか、野菜は嫌いかー。うんうん、しょうがない。ガチャはお肉が好きだもんなー。
「ガチャ様ー、好き嫌いはダメですよー。リアリーさんがせっかくお野菜用意してくれたんですから。今日もおやつでヴェルデ様から干し肉もらってましたよね?」
奥のキッチンでエプロンを付けたアスターシアが、ウェンリーと一緒に夕食の仕込みをしながら、ガチャのおやつの件をリアリーさんにバラした。
彼女はメイドの特性が開花したことで炊事技術も上がり、料理の修行も兼ねて、酒場の食事の仕込みのお手伝いをしている最中だった。
「あらあら、それはちょっとお肉の取り過ぎかしらねー」
アスターシアにおやつの件をバラされたガチャが、ビクリと身体を震わすと、俺の方を向いて助けて欲しそうにレバーを回す。
ガチャ……困ってるんだな……。
よし、ここは相棒の俺に任せてくれ! 何とか切り抜けて見せるぞ!
ガチャに『承知』のアイコンタクトを返す。
「あー、ちょっと最近野菜不足ダナー! リアリーさん、それもらいますねー」
「え? あっ!」
「ヴェルデ様!?」
リアリーさんが手にしていたレタスの葉をもしゃもしゃと食べる。
けっこう新鮮なレタスで、水分も多く、えぐみも少なくて甘さが感じられるやつだ。
んー、悪くない味だ。
「もう、ヴェルデ君はガチャちゃんに甘いわねー」
「そうですかね? ガチャもきっとそのうち頑張って野菜が食えるようになりますよ。なぁ、ガチャ」
勢いよく顔をブンブンと頷かせたガチャが、再びお肉のペーストが盛られた皿に顔を戻していく。
まぁ、でもちゃんと体調は飼い主の俺が見ててやらないといけないし。
明日こそ、おやつはなしにしないとな!
おやつの中止を決意した俺は、ご飯を食べるガチャの背を優しく撫でる。
ガチャが飯を食ってるところ見てたら、俺も腹が減ってきたぞ。
今日もいくつもダンジョン攻略したりして歩いたから、ガッツリ食べたいところだけど、今日のおすすめは――なんだろうなぁ。
「ヴェルデ様、そんなにお野菜が欲しいなら、今日のおすすめ定食はチキンのサラダボウル定食ですよ。お野菜たっぷりで玉ねぎドレッシングです!」
奥で仕込みを手伝っているアスターシアがおすすめを教えてくれた。
野菜も嫌いではないので、問題ない。
どんなのが出てくるか想像したら、もっと腹減った。
「リアリーさん、じゃあ、それで」
「はいはい、アスターシアちゃんのお手製だから、残さず食べないと怒られるわよ」
「腹ペコなんで残すわけがないですよ」
リアリーさんがニコリと笑うと、キッチンの二人にオーダーを伝えた。
ガチャのご飯を眺めつつ、自分の食事がくるのを待っていると、入り口から探索者風の鎧に身を包んだ若い男が入ってくるのが見えた。
「あら、お帰り。トマス、調査は終わったのかしら?」
トマスってたしかウェンリーの兄貴で、俺たち以外で唯一のホーカムの街の探索者だったよな。
ウェンリーと同じ、茶色髪と鳶色の瞳をした意外と若い男だ。
トマスはカウンター席で食事を待つ俺の隣にくると、自分のタグペンダントと、スマホみたいな黒い板をリアリーさんに差し出した。
「ダンジョン調査5件終わったぞ」
「はいはい、確認するわ」
リアリーさんが、タグペンダントとスマホみたいな黒い板を受け取ると、機器を操作し始めた。
「あんたが、最近この街に来た新しい探索者か?」
隣に座ったトマスが、こちらに興味を持ったのか話しかけてきた。
「ああ、1週間ほど前からこの街で探索者をさせてもらっている」
「なんで、こんな辺境の低レベルダンジョンしか出ない街で探索者なんてやろうと思ったんだ?」
「探索者になり立てでね。勉強を兼ねて低レベルダンジョンの攻略から始めているだけさ」
リアリーさんたちにも、そういった話をしてある。
実際、Gランクダンジョンであれば、今の俺たちであれば余裕で攻略できる実力だ。
でも、難易度の高いのをやる前に、Gランクダンジョンでもらえるボス討伐褒賞の金色コインを集めているところであった。
「ふーん、ヴェンドの街に行った馬鹿野郎たちとは考え方が違うってことか」
トマスがさらにこちらに興味を持ったようで、ジロジロと見てくる。
悪いやつじゃなさそうだけど、なんか変わったやつだよな。
そもそも探索者ってソロ活動するやつの方が珍しいって聞いたし。
それにリアリーさんに聞いた話だと、調査専門でやるやつも、そんなに数は多くないそうだ。
けど、目の前のトマスは調査専門、それも低レベルダンジョンが発生するホーカムの街の専属みたいな形で探索者をしている男だった。
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