第40話 オークション出品
「よいっしょっと! リアリーさん、ここでいいんですか?」
奥の部屋から出てきたウェンリーが、大きな黒い箱をカウンターの上に置く。
プロジェクターかな? アレ? なんかそんな感じするぞ。
「ああ、そこでいいわよ。今、オークションに繋げるから待っててね」
さきほどウェンリーが触っていた機器にリアリーさんが触れると、黒い箱が発した光で空中にぼやけた映像が浮かび上がった。
しばらくすると、映像のピントが合ってくる。
「最近はオークションに出品したり、購入したりする探索者がいなかったから、事務室の方で街の人の依頼品を落札してるくらいしか使ってなかったのよ」
オークション画面が表示され、いろんなエンチャント装備、通常の装備品、魔導具、魔石などなどがリアルタイムで売買されていた。
「えっと、これっていつでもオークションしてるんですか?」
「そうよ。世界中の探索者ギルドと繋がっているもの。ここが夜でも、遠くの探索者ギルドはお昼だしね。いつでもオークションは開催されてるわよ」
24時間ずっとウィンダミア各地を繋いで開催されてるってことか。
世界各地を繋いでるってことは、インターネットの代替的なシステムが、もう普通に構築されてるってことかよ。
「まぁ、このオークションシステムも探索者ギルドが独自で作ったものじゃなくて、探索者登録システムとかと一緒に統一ダンジョン協会から与えられたものだしね」
どう見てもPCやタブレットみたいな品やプロジェクターみたいなのは、
異世界だからって、いろんな影響を残しすぎ! まぁ、俺としては助かるんだけどさ。
でも、統一ダンジョン協会って『渡り人』を殺せって言ってる組織だよな。
そんな組織が、どうみても『渡り人』が作ったようなシステムを提供してるっておかしくね?
聞いてみたいとは思うけど、アスターシアからあんまりこの世界に当たり前に存在してることに対して質問するのは怪しまれると釘を刺されてるしな。
統一ダンジョン協会のことは、また別の機会にしておくか。
今はオークションシステムの方を聞くのが先だ。
「すごいですね……。じゃあ、これって個別の品もオークションされてるか検索できたりするんですか?」
「そうねぇ。個別って品名が分かれば検索はできるわね。あとは通常装備品、エンチャント装備品、魔導具、魔石といった区分ごとだったり、値段別に並べ替えたり、決済までの残り時間で並べ替えたりできるわよ」
「へー、けっこう充実してますね。エンチャント装備品とか見れますか?」
「見れるわよ」
リアリーさんが機器を操作すると、オークションが切り替わる。
これが今現在オークション中のエンチャント装備品か。
えっと、今時点で2075点も出品されてる。
出品中の最高額が出てる神雷の大剣は……2000億ゴルタって誰が買えるんだよ! 石油王か!?
でもやっぱアスターシアが言ってた通りエンチャント、装備品はかなり高い値が付いてるな。
「出品とかって簡単にできるんです?」
「出品? え、ええ、真贋鑑定をしたあと、別途出品手数料はもらうことになるけど、比較的簡単にできるわね。何か出品する?」
「実はこれを出してみたくて」
魔法の袋と称したただの袋から、空間収納にしまっておいた逆刃の小手を取り出し、カウンターの上に置く。
アスターシアに装備させてもいいかなと思ったが、オークションで高く売って、その資金で装備全体をグレードアップさせた方がいいと俺は判断している。
小手を見たリアリーさんの表情が変わる。
「エンチャント装備品みたいね。いいのかしら?」
「ええ、実家から独立する際、餞別としてもらったものですが、生活の資金の足しにしたいなと思ってまして。ガチャもアスターシアも食べさせないといけないわけだし」
アスターシアが、Gランクダンジョンで隠蔽された宝箱を見つけたという話はあまりしない方がいいかもしれない。
隠蔽看破は意外とレアなスキルっぽいし、大っぴらに言ってどこかでデキムスたちの耳に入り、大柄の壮年シアと同じ人間だと思われるのも避けたい。
なので、逆刃の小手は父と兄が一家を立てるために家を出た俺への餞別の品にしといた。
貴族であると自称してるわけだし、そっちの方が高額なエンチャント装備品を持ってる自然な理由だと思われる。
チラリとアスターシアを見たが、問題ないと頷いた。
「そうね。2人の面倒は見ないといけないし、お金はいくらあっても困らないしね。じゃあ、まずは真贋の鑑定をさせてもらうわね。ウェンリー、品物をお預かりして」
「は、はい。お預かりします!」
カウンターから小手を取ったウェンリーが、タグペンダントを生成したのと同じ黒い板の上に置く。
リアリーさんが機器を操作すると、淡い光が浮かび、緑色に変化したかと思うと、鑑定画面と同じウィンドウが浮かび上がる。
「真贋鑑定終了。『逆刃の小手』というエンチャント装備ね。性能はそこに出てるわ。本当なら真贋鑑定料として一律50ゴルタかかるけど、初回だしサービスよ」
真贋の鑑定をするのにまず金がかかるのか。
まぁ、当たり前か。偽物をオークションに出すわけにもいかないわけだし。
それに普通の探索者の場合、鑑定できないからダンジョンで見つけた物を探索者ギルドに持ち込まないと性能などを知れないってことだよな。
この鑑定費が、探索者ギルドの収入源の1つでもあるんだろうなぁ。
「ありがとうございます! で、出品料はいくらくらいに?」
「事前に出品料を支払う場合は、最低落札価格の10%を出品料として徴収。事後に出品料を支払う場合は最低落札価格の15%を取引成立後に徴収」
最低落札価格1ゴルタってすれば、ほとんど出品料は取られないけど、1ゴルタで落札される可能性があるから無茶な値段設定はできないよな。
逆に最低落札価格が高すぎても、応札がない場合もあるだろうし、相場を見極めて最低落札価格を設定しておかないと。
「指定期間内に不成立なら支払った出品料は返金されるわ。応札があり落札されたら、探索者ギルドが責任を持って落札者まで商品を配送し、受け取り後口座へ入金処理がされるようになっているわよ」
「出品の分かりました。出品する際の最低落札価格の参考に、『逆刃の小手』でオークションに出品されてるか調べてもらっていいですか?」
「いいわよ。1件だけ出てるわね」
最低落札価格1万ゴルタか……。たっけぇ……。
事前支払いにだと10%に当たる1000ゴルタが必要になるが、俺たちはそんな金を持ち合わせてない。
成立後支払いだと15%にあたる1500ゴルタを持って行かれる。
500ゴルタの差は、1か月くらいの生活費の差になるぞ。
なにか金策できるものないか……。
「ヴェルデ様、魔物の素材を探索者ギルドに買い取ってもらうのはどうでしょうか?」
思案に入り込んだ俺にアスターシアが助け舟を出してくれた。
そういった物も探索者ギルドで買い取ってくれるのか。
「魔物の素材は、いい状態なら規定の値段で買い取らせてもらうわよ。状態の悪いのは断らせてもらうけど」
「こういった感じのやつなんですが……」
袋の中に手を入れ、空間収納を介して最初のダンジョンや今日のダンジョンで討伐したLV10以下の魔物の素材をカウンターに取り出す。
「イノシシの皮、イノシシの牙、猪の肉、毒の液、カエルの肉、スライム核、酸の液、ゴブリンの骨っと。全部、魔法の袋に入れてたから腐ってないし、丁寧に切り分けられててすごい状態がいいわね。これなら、全部買い取れそうよ。すぐに計算するから待ってね」
「じゃ、じゃあ、査定お願いします」
ウェンリーが、次々に素材を黒い板に置き、リアリーさんが機器を操作していく。
さすがにLV40のゴブリンチャンピョン、LV20のロングネイルベアー、LV11のジャイアントセンチピード、LV10のはぐれウルフとかは出せないよな。
山で修行中に魔物を倒していたとは話しているいるけど、あまりにも高LVな魔物を討伐してると無駄に勘ぐられるかもしれない。
身分がバレるのではと、緊張していた俺の手にアスターシアが自分の手を添えてくれた。
「そんなに緊張しないでも、大丈夫ですよ。ヴェルデ様」
「ああ、そうか。そうだな」
しばらくして買い取り額が出たらしく、俺の目の前にウィンドウが浮かぶ。
「それが素材の買い取り額ね」
2480ゴルタになったか。数は多かったけど、低LVな素材だからそこまで値段は高くならなかったようだ。
でも、これで出品料は事前に払えるようになった。
多少なりとも生活の足しになるので、これからも討伐した魔物は解体していく方がいいな。
「じゃあ、この値段で大丈夫です。そこから出品料を出しますので、『逆刃の小手』を最低落札額1万ゴルタで出品してもらえますか?」
「いいわよ。出品料を差し引きして1480ゴルタは、アスターシアちゃんと均等にして口座に振り込んでおくでいいかしら?」
「ええ、それでお願いします」
「じゃあ、2人ともタグペンダントを黒い板に載せて」
リアリーさんに言われた通りに載せると、淡い光が浮かび口座の残高が740ゴルタ増えた。
当座の現金と口座の残高、それに出品した『逆刃の小手』がオークションで高く売れればしばらくは生活資金には困らなくなるはずだ。
「はい、じゃあ出品もされたわよ」
オークション画面を映していたウィンドウに、新たに『ホーカムの街 逆刃の小手』という出品が増えていた。
「売れてくれるといいなぁ」
「エンチャント装備品は人気だからすぐに売れるわよ。さて、ガチャちゃんが待ちくたびれて寝てるから夕食にしてあげないとねー」
リアリーさんの言葉で、膝の上に抱きかかえていたガチャが爆睡してて、カウンターの上に謎の水滴が発生していることに気付いた。
暇だから寝ちゃったか……。でも、ちゃんと待てたのは偉いぞガチャ。
「そうですね。今日の定食は何がおすすめですか?」
「ヴェルデ君から、イノシシ肉が手に入ったし、ぼたん鍋定食かしらねー」
ぼたん鍋か、想像しただけで腹が鳴るし、よだれが出そうだ。
「じゃあ、俺はそれで! アスターシアは?」
「わたしも同じ物を!」
「はいはい、ウェンリーぼたん鍋定食二つねー!」
「はーい!」
手続き処理を終えたウェンリーが奥のキッチンに消えていった。
少し遅くなったが、依頼達成報告と、オークション出品を済ませ、俺たちは夕食にすることにした。
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