第13話 いきなりのボス討伐戦

 気配と姿を消した俺は、暴れる巨大なゴブリンの背後にゆっくりと息を殺して近づく。



 あてずっぽうに振るったゴブリンの剣先が、数センチ前のガレキを掠めた。



 あっぶねぇ! 少しも油断はできねえな。



 初撃でダメージ与えつつ、鑑定して弱点属性を見つけ、連続で魔法を叩き込む作戦でいくか。



 俺は小さく息を吸うと、がら空きのゴブリンの背後から背中を短剣で突き刺し、その身体に触れた。



 奇襲攻撃をしたことで、影潜りの外套に付与された闇の力が消え、俺の姿が露出する。



「ぐううっ! ウシロか!」



 初撃成功! ついでに鑑定発動!



 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 ゴブリンチャンピオンLV40


 HP670/750


 MP0/0


 攻撃方法:斬撃 体当たり ソードスラッシュ


 弱点属性:火


 解体時取得物:ゴブリンの大骨 チャンピオンの大角


 解説:同族を倒し食うことで巨大化したゴブリン。巨体に見合わない素早い動きで剣を振るってくる。通常のゴブリンよりも知性が高く、人語を理解し、ソードスラッシュによる範囲攻撃を行ってくる面倒な敵。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――



 HPたけぇ! でも、おかげで炎が弱点だって分った! 



 短剣を口に咥えると、両手でゴブリンチャンピオンに触れ、ファイア連撃コンボを食らわせる。



「食らいやがれ!」



「うがぁあああっ!」



 手のひらから出た炎により、肉の焼ける匂いが鼻をつく。



 強化されたファイアの魔法によって、身体が焼けただれてもゴブリンチャンピオンは倒れることはなかった。



 やっぱ、やりきれねぇ! このHPお化け野郎がっ!



 怒りと痛みで叫ぶゴブリンチャンピオンが力任せに振るった拳が、俺の頭の数センチ上を掠めていく。



 くっそ、当たればぺちゃんこにされちまうやつ。



 こっちの姿がまた隠せるようになるまであと何秒だ。



 視界の端に出てた影潜りの外套の再使用までに必要な時間を確認する。



 あと15秒もあるのかよっ! できるだけ距離を取った方がいいな!



 隙を見て全速で駆け、相手との距離をとる。



 あと5秒、4…3…2…。



 再使用しようと意識をそちらに向けた時、腹に鈍い痛みを感じた。



「ぐへぇ!」



 せり上がる胃液を地面に巻き散らしながら、俺は衝撃に耐えられず地面を転がった。



 ぐぅ! 距離をとったら、ソードスラッシュかよっ! 



 いてぇ……まっぷたつにされるよりかマシだけどさ。



 戦士でHPが増えてなかったら死んでただろ。コレ。



 口の端の胃液を袖で拭うと、ヒーリングライトを発動させ、ダメージを回復させていく。



「オマエ、ぜったい許さない! コロス!」



 皮膚が焼けただれたゴブリンチャンピオンは、怒りを帯びた瞳でこちらを見据えてくる。



 再び巨大な剣を構え、ソードスラッシュを振り抜く動作に入った。



 やべえ! もう1発ソードスラッシュ!? 回避できねぇ!



 避けられないと思った瞬間、ゴブリンチャンピオンは俺ではない方向へソードスラッシュを放った。



「まず、そっちが先だ!」



 ソードスラッシュの衝撃波を視線で追うと、がれきの裏に隠れてたはずのガチャに向かっている。



「ガチャ! 隠れてろって言っただろ!」



 俺の声に気付いたガチャはレバーを回し喜ぶと、ソードスラッシュの衝撃波を搔い潜ってこちらにむかって駆け出した。



「クッ! すばしっこいヤツだ!」



 ゴブリンチャンピオンの意識が逸れた隙を突き、影潜りの外套の力を再使用して姿を消すと、こちらに向かってくるガチャを回収した。



 気配と姿が消えた俺は、ソードスラッシュから身を隠せそうながれきの裏に潜む。



『ガチャ、隠れてろって言っただろ』



 外套の中のガチャは、『でもだって』という感じにこちらを見上げてくる。



 本当に忠義に厚いやつだ。自分が死ぬかもしれないのに飛び出してきてくれるなんてな。



『でも、おかげで助かったぞ。さすが、俺の相棒だ。ありがとな』



 ガチャの頭をわしゃわしゃと撫でると、レバーを回して喜んだ。



 外套の力でゴブリンチャンピオンはこっちを捕捉できてない。



 もう一回奇襲して、今度こそトドメを刺す。



『ガチャ、今度は俺がいいって言うまで勝手に飛び出したらダメだぞ。今からトドメを刺してくる。安全になったら呼びかけるから、それまで待てだ。できるな?』



 こちらを見上げているガチャがレバーを回して応えた。



 再びガチャをがれきの裏に隠れさせると、俺たちを探すゴブリンチャンピオンに近づいていく。



「どこだ! カクレテないで出てこい!」



「俺はこっちだぜ!」



 潜んでいた俺は、連撃スキルのクールダウンの終わり確認すると、そこら中にソードスラッシュを放つゴブリンチャンピオンの背後に立つ。



 隙だらけのゴブリンチャンピオンの背中へ、ファイア連撃を叩き込んだ。



 炎が皮膚を焼き、ゴブリンチャンピオンの身体が燃え上がり始めた。



 このまま、いけるか!?



「ぐううう! ヒキョウなやつだ! そんなヒキョウなやつに、このオレが滅ぼされるわけにはイカン!」



 炎を耐えきったゴブリンチャンピオンは、必死の形相で俺に向かって剣を振り下ろそうとする。



「悪いが、俺はここから出たいんだよ! お前に付き合ってる暇はねえって!」



 魔法の発動が途切れると、素早く前に出て、鞘から抜いた短剣をゴブリンチャンピオンの額に突き立てた。



「クソがあああ! このオレさまがこんなヤツに滅ぼされるとはぁあああああっ!」



 俺の放った最期の一撃でHPが尽きたゴブリンチャンピオンが膝から崩れ落ち、大きな音を立て地面に倒れ伏し、絶命した。



 発生した大量の光の玉ががれきの裏に隠れているガチャに向かって飛んでいく。



 同時に俺の目の前に金色の宝箱が現れた。



「ふぅ、勝ったぜ! 大勝利!」



 勝利に安堵した俺は、その場に座り込む。

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