第37話 2−6

 部屋の整理の目処をつけ、図書館へのあいさつも終わった。

 尤も図書館へはまたこの町の歴史について世話になることもあるだろう。

 でもその時は俺は利用者の側の立場になるだろう。

 屋敷の書斎を思い出すと、それはどれくらいになるかは分からなかった。

 肩から厚地のトートバックを下げている。受け取った本はこの中に入っている。古い本だが、装丁がしっかりしているので状態はかなりいい方だ。


 そのあと実にさっぱりとしたものだった。

 本を旅行鞄にしまって実家に知らせに行くだけだ。

 ここについて特筆すべきことはなかった。別に家出同然に飛び出してきたわけでもなく、いたって平穏で「何かあった時くらいでいいから、連絡はしろよ」くらいであった。

 夏休み前の小学生のように、たくさん荷物を抱えなくてもいいように、少しづつ屋敷には使うものを運んでいたから、最後の日には大家さんへ返しにいく部屋の鍵くらいのものだった。


「猶予の一週間が終わる。これから俺の降霊術士としての生活が始まるんだな。段々と実感が湧いてきた」


 屋敷のバルコニーから街が一望できるということは、町からもバルコニーだけは見ることができる。実際は小さくて見えないから方角だけになるけど。


 最後に思ったのは、もし降霊術士としての道に進まなければ、どんな人生があったのだろうと想像しただけだ。

 あのまま司書補助から司書の資格を取って、本格的に図書館の仕事に就いていたかもしれないし、実家に戻って農家を継いでいたかもしれない。

 そうやってあったかもしれない未来に思いを起こしてみるのは楽しいものだった。どんな道を選んでも楽しいことと辛いことはあるだろう。

 例えば農家なら自然が相手だから豊作の年もあれば不作の年もあるだろう。気候によって育てる作物を選び直すこともしなくてはならないかもしれない。


 その中で俺が進むと決めたのはこの道で、今まで知りもしなかったから考えもしなかったけど、一人前になれるのかもわからない。だけど、せっかくだからやってみよう。

 最終日は早めに屋敷に戻った。

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