第34話 2−3

 あの日から一週間は嵐のごとく過ぎ去った。

 契約書は部屋の一番わかりやすい場所にいつでも見えるように掲げている。

 広さは前の部屋と同じくらい。ただし間取りは違っている。


「門は閉まった。なんて言ったけど、吾郎が今まで住んでいた部屋もそのままってわけにもいかないわよね。まずは一週間の猶予をあげるから引っ越しの準備をなさい。本格的に始めるのはその後にしましょう」


 ということで、ひとまずお人形を比沙子さんに預けて書斎を出た。

 どちらにしても未だに呪いの人形なのか、ただの人形なのか分からない。

 あんなボロボロの神社に煤けて置いてあったのだから、ただの人形には思えない。現時点では俺が勝手にそう思うっているに過ぎないが、比沙子さんの様子からしてやはり、ただの人形ではなさそうだ。

 そしてもう何度目かの林道を下りた頃には陽は傾き、時間にして午後三時と言ったところ。


「とりあえず、今日はこっちの部屋で寝ようか。言われた通り整理もしないといけないし、だだいまっと」


 いつもと同じ俺の部屋のはずなのに、なぜかひんやりと感じられた。

 まるで俺が出ていくことを知って悲しんでいるかのように。

 

「もしかしたら、こんなことがなかったら、ずっと気づかなかったかもしれないけど、この部屋にも何かいたのかもしれない」


 何も感じてやることができなかった。そうだとしたら今の俺にしてやれること。それは今までの感謝をしながら巣立つことだ。

 そう思うと自然に頭が下がった。


「俺はこれでよかったと思うしかない。今までありがとう。もう少しだけど、次に住まう人のこともよろしくな」


 それから俺は部屋に入ってベッドに横になって天井を見上げた。

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