第29話

 比沙子さんはあっさりとそう言った。

 日常会話と同じ調子で。俺としてはかなり踏み込んで聞いたつもりだったのに。


「確かにそっちの方面に進めば、今までとは世界が違って見えるだろうな。今まで通りにはいかないというのも頷ける」

「驚いていた割には理解が早いわね。それでどうするの?」

「現にこうやって俺と比沙子さんは話をしているし、そこまでは変わらないだろう。せっかくだしやってみる」


 俺は意気込んで答えた。

 世の中には麻薬や殺人など一度でもやってはいけないこともある。だけどこれがそれらに当たるとは考えにくい。

 比沙子さんがいうように「人生のわかれ道」みたいには思わない。様子からして嘘を言っているとも思わないけど、すぐに戻って来られるだろうと。


「それでは決まりですね。わかりました。では準備をしましょう」


 比沙子さんは屋敷に使用人たちを近くへ呼びといくつかに指示を出した。


「まずあなたがやるべきことは、あなたの部屋からその人形を持ってくることです。その間にこちらも準備を進めておきます。それでは行きなさい」


 そうして俺は屋敷を追い出されてしまった。










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