第21話
「ようこそ、またくると思っていました」
彦三郎さんの娘である比沙子さんがカーテンの奥からテーブルまでやって来た。
特に驚いた様子もなくそう言った。
「今日はどんなご用向きでしょうか?」
「そうですね。不躾なお願いだと思いますが、この館に彦三郎さんの本というか何か残っていませんか。どうも気になってしまって」
比沙子さんは使いの人が持ってきたティーカップに口をつけてから俺の方を見た。
「それならありますよ。生前に使っていた書斎があります。そこなら参考にしたい本や日記などが見つかるでしょう。私も行きますから、ついて来てください」
少しだけ目元を緩めると席を立った。俺も席を立った。
林の中に立つこれだけの屋敷だ。案内もなしに歩けば、あっという間に迷子になるだろう。それにここは当たり前だけど自分の家ではないのだ。
テーブルから1番近くの扉を開けて長い廊下を進む。
前も思ったがよく掃除の行き届いたものだと思う。
3分くらいは歩いただろうか俺たちは一つの部屋の前にたどり着いた。
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